「便秘」の訴えには潜む「地雷」に警戒せよ
外来で「便秘」を訴える患者に対し、漫然と下剤を処方することは、時に医療訴訟のリスクをはらむ「地雷原」を歩くことになりかねません。特に、普段便通に問題のない患者が突然の便秘を訴えた場合、単なる機能性便秘と軽視してはなりません。その陰には、進行大腸癌、腸閉塞など、緊急性を要する、あるいは生命に関わる重篤な疾患が潜んでいる可能性があるからです。器質的な狭窄や閉塞を見逃し、安易に刺激性下剤などを投与して様子を見た結果、腸管穿孔や敗血症性ショックを引き起こせば、医療過誤として責任を問われかねません。
実際、「医療事故の再発防止に向けた提言(第10号) 」でも、大腸内視鏡検査前処置時の下剤投与により、腸閉塞に伴う敗血症性ショックで死亡した事例が報告されています。これは、下剤投与前には、患者に腸管の狭窄や閉塞がないことを確認することの重要性を痛烈に示しています。
突如直面する課題:「この便秘は器質的な狭窄ではないのか?」
近年、多様な作用機序を持つ新規下剤が多数登場し、慢性便秘症の質の高い薬物療法は容易になりました。しかし、我々消化器科医が初診時に直面する最も重要な問題は、「この便秘は狭窄を伴う器質的便秘症ではないのか?」です。数日~数週間前からの便通異常であっても、全周性の進行大腸癌による狭窄や、時に糞便性イレウスが原因である可能性を常に考慮すべきです。
「便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症」 にも、「警告症状や危険因子(50歳以上での発症、大腸器質的疾患の既往歴または家族歴)がある患者、通常の臨床検査にて異常所見のある患者には、大腸内視鏡検査を行う必要がある」と明記されています。しかし、担当医には「安全に大腸内視鏡の前処置が行えるのか? どうすれば前処置のリスクを回避できるのか?」ということを確認する義務があります。
リアルタイム診断ツール POCUS(腹部エコー)の活用
便やガスの貯留評価には腹部単純X線も有用ですが、大腸癌そのものの描出、腸管壁の状態、腸の動き(蠕動)、わずかな腹水の評価などは困難です。CTは情報量に優れますが、クリニックでは設置していないことが多く、他施設への依頼は即時診断の機会を逃します。そこで、外来診療の武器として注目されているのが、POCUS(point-of-care ultrasound :外来などで医師が診察の一部として行うエコー検査)です。私も約15年前から腹部症状の評価にPOCUSを活用しています。特別な異常所見のない症例であれば、わずか5~10分程度で腹部全体の状態をリアルタイムかつ非侵襲的に評価できます。問診や触診と同時にPOCUSを行うことで、診療時間の短縮と診断精度の向上を両立できます。
腹部POCUSでは腹部全体をくまなく観察することが、見落としのないPOCUSの基本です。本シリーズでは、その中でも特に便秘に直結する『大腸』にフォーカスします。スペースの都合はありますが、大腸の観察法、便貯留の評価、下剤乱用症候群の診断、そして進行大腸癌(Fig.1)や大腸閉塞の発見のコツまでを網羅的に解説します。