[書評]「良書との出合いはいつでも素晴らしいものだと実感できる、そんな一冊」 
阿部 展次(杏林大学医学部 消化器・一般外科 上部消化管外科 教授・診療科長)

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 一通り目を通し、さて、書評を書こうかと思ってリビングで本書を広げていると、医学部4年生の息子がやってきて本書を手に取り、しばし目を通した直後に「何これ。めっちゃわかりやすいじゃん。講義でこの領域聴いたけど、何が何だかわからなかった。知識が整理できるなあ。ちょっとしばらく借ります。」と言って自室に持っていってしまった。書評を書こうかとせっかく重い腰を持ち上げたのに出鼻を挫かれた感があったが、すぐさま、このエピソードは使える、と思い直した。この愚息の放った一言は本書の本質を突いたものであった。

 

 胃の内視鏡治療・外科治療に携わる私の仕事の多くは胃癌に関するものであるが、胃の粘膜下病変(subepithelial lesion:SEL)の診療に当たることも少なくない。胃SELには多彩な病変が含まれており、鑑別診断が時として難しく、治療方針も病変によって大きく異なる場合が少なくない。頻度が低いことからも、体系的に学べる成書は極めて少なく、消化器内科関連雑誌の特集号が散発的に発刊されるだけである。そのようななか、満を持して本書が刊行された。本書では、永年にわたり胃SELの診療に携わってきた著者の平澤俊明氏が持つ豊富な経験を通じ、SELの分類や頻度、(質的・鑑別)診断の実際、各々の病態、病理像、重要なリサーチ結果、治療法などが、満載される美しい画像とともに網羅・整理・解説されている。

 

 平澤俊明氏は本書を作成するにあたり、受験生の時に巡り合った「予備校講師の実況中継」というシリーズ参考書からヒントを得たという。実況中継とはどういったものなのか? 文書で実況中継が可能なのか?といった思いで読み進めた。そしてすぐにわかった。とにかくわかりやすい。レイアウトにも工夫が凝らされ、視覚的に理解がどんどん進む。混乱あるいは理解が十分でなく頭の中で?が浮かんでいると、本書ではすかさず「Point! 」「さらに掘り下げ!」「まとめ」「Note」「コラム」などが差し込まれ、読者が抱くであろう(素朴な)疑問点に対して鮮やかに知識が補填され、まさに「腹落ちする」方向で読者を満足させていく。これが本書の真髄となる「実況中継」ということであり、あたかも読者が手を挙げて質問するであろう内容の回答が用意されているのである。見事な構成と言わざるを得ない。自身が3回も経験したアニサキス症とアニサキス生態に関する記述もここまで掘り下げて記述されたものはなく、執念すら感じて実に微笑ましい。楽しく読める、これも本書の大きな特徴であろう。

 

 胃SELに関しては日常臨床に携わるだけでなく、医学部3年生の講義も担当している。本書を読んで、ああ、このように講義すればいいよな、と再考されられた。このように、本書は年代・職位にかかわらず、SEL診療に関与する全ての消化器内科医、消化器外科医に大いに役立つものとなろう。全ての読者が「腹落ち」し、満足すること間違いなし、必読の書として自信を持ってお勧めする。また、医学生や研修医などの初学者が手に取れるよう、医学部図書館や医局単位での所蔵も望まれる。良書との出合いはいつでも素晴らしいものだと実感できる、そんな一冊である。

 

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