[書評]「消化器内科・外科問わず読むべき、胃腫瘍全般における名著」
平澤 欣吾(横浜市立大学附属市民総合医療センター 内視鏡部 部長)
平澤俊明先生の著書『Dr.平澤俊明の白熱講義実況中継 胃SEL/SMTの診断と治療』に出合ったのは、2024年のJDDWの書籍販売コーナーである。赤い表紙が目を引く本書は、その人気を反映するかのように最前列に展示されていた。俊明先生がこの書籍を執筆されたという噂を耳にしたとき、「SMTだけの書籍? かなりニッチなところを攻めたなぁ」という印象を受けた。しかしながら、いざ手に取ってみると、その印象は「すげぇ面白い」に一変したのである。
本書の書評を執筆する機会をいただいたのは、僭越ながら私が同じ“平澤”という姓を名乗っているからか、あるいは胃SMTに対してEFTR (endoscopic full thickness resection)を実施しているからかは分からないが、いずれにせよ、このような貴重な機会をいただいたことに感謝の念を抱いている。
もともと国際的にはSEL(subepithelial lesion)という用語が使用されていたが、本邦ではSMT(submucosal tumor)が主流であり、最近ではこの呼称も少しずつ統一されつつある。本書の冒頭部分では、SELとSMTという2つの表現の定義や違いが非常に丁寧に説明されており、多くの医師が抱えていた「もやもや」を見事に解消してくれる。この書名が「SEL/SMT」となっているのは、現在もSMTという表現に慣れ親しんでいる国内医療現場への配慮と、両者の違いを明確にする意図が込められているのだろう。
GIST(消化管間質腫瘍 : gastrointestinal stromal tumor)を代表とする筋層由来の腫瘍は狭義のSMTに該当するが、俊明先生の狙いは単にこれらを解説することではないだろう。推測するに、SMT様の形態をとる腫瘍、すなわちSELには多くの鑑別診断が存在し、それを正確に診断することの重要性や面白さを、著者自身の経験を通じて伝えたかったのではないだろうか。「これなんだろう?」と疑問を抱いたとき、とことん追及する俊明先生の姿勢が随所に表れており、本書では多岐にわたる鑑別診断が体系的かつ網羅的に記載されている。「SELには癌が含まれる」という事実をここまで明確に示した書籍は今まで存在せず、これだけでも本書の価値は極めて高い。
さらに特筆すべきは、「画」の美しさである。内視鏡写真、病理組織、シェーマに至るまで、すべての画像の質が非常に高い。ただ眺めているだけでも興味深く、さらにその画像に「腹落ちする解説」がついているのだからたまらない。なぜその腫瘍がSELといった特殊な形態をとるのか、その詳細な解説はまさに「腹落ち」そのものである。パッと開いたページの画像を見て、「これはなんだ? へぇ、なるほど!」と思わず感嘆する瞬間が何度も訪れる。これだけの症例を集め、それを解説できるだけの高品質な画像をそろえるには、相当な労力がかかったであろうことは想像に難くない。
本書は、SELという枠組みにとどまらず、胃腫瘍全般における名著といえる一冊である。
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