全国症例ぶらり旅(5)―埼玉県・伊奈病院編 【解答】

 

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解答:6 その他

 

皆さま、診断できましたでしょうか?

 

結構難しい症例でしたよね…。

 

まあ、内視鏡診断に精通したマニアックな先生なら一発で当ててくるのかもしれませんが、一般的には難しい症例だと思います。

 

まず、読影の基本に立ち返って診断していきましょう(少ない枚数しか載せてないので、細かいことはご容赦ください)。

 

背景胃粘膜は、萎縮が小彎側を噴門まで進展しており、O-1の萎縮と判断しました。除菌歴もあり、粘膜の光沢もあり、大彎測のひだの所見などもあわせて既感染で矛盾しないと判断しました。

 

病変は幽門前部大彎に認めています。表面の粘液の影響もあり、一瞬境界明瞭な隆起性病変に見えます。

 

ただし、口側の粘膜は境界が不明瞭です。サイズは2cm程度でしょうか(2cmのメジャーでも計測しましたが2cm弱でした)。

 

脱気すると隆起が目立ってきます。表面の粘液は時間をかけて洗浄していくと、右下の写真のようになんとかはがれて、表面の粘膜構造が見えてきましたね。鉗子で触ると非常に柔らかく、SMTは否定的と考えました。

 

多くの先生が、まず鑑別に胃癌を鑑別にあげられたのではないでしょうか?

 

もちろん、私もぱっと見て、癌の可能性はあるとして診断をしていきました。

 

病変の位置、背景粘膜から考えて、癌だとすると分化型腺癌を疑うべきでしょうね。

 

さらに、「モテ本」のp.106で濱本先生も記載されていますが、未分化型は陥凹型を呈するのが一般的です。

 

では癌だとしたら分化型腺癌かといいますと、やはり白色光観察で最初の写真でも口側の境界が不明瞭で周囲の粘膜と同じように見えます。

 

粘液が大部分とれたあとの白色光観察でも腫瘍としての境界は不明瞭でした。

 

やはり上皮性腫瘍とするには境界がないので根拠が乏しいと考えて否定的としました。

 

では、最後に過形成性ポリープはどうか?? と考えますと、確かにこのように白苔・粘液が付着した過形成性ポリープをみかけることもあるので、鑑別にあがると思います。

 

モテ本2」 p.41にも記載していますが、典型的には過形成性ポリープの通常白色観察光所見は発赤調でイチゴ状の表面模様です。

 

と、言うのは簡単ですが…。

 

「モテ本2」の胃ポリープと早期胃癌の単元にも複数症例提示していますが、典型的なイチゴ状の表面模様を呈さない過形成性ポリープは結構ありますし、診断が非常に難しい場合がありますよね。

 

私も今回の症例で一番可能性があるとすれば、過形成性ポリープかな~と思っちゃいましたよ。

 

ただし、送気でしっかり伸展した写真を見ると隆起自体もほぼ平坦に近い程度の隆起ですし、粘液がとれたあとの粘膜をみると、周囲の正常粘膜とほぼ同じようにみえますので、やっぱり過形成性ポリープも否定的かな~。

 

ちなみに、この時の伊奈病院での生検結果は複数個施行されて全てG1の診断でした。

 

 

*ひとつ、有用な情報として、内視鏡検査時とても蠕動の強い症例だったそうです。

 

ということで、色々悩みましたが、丸茂先生に、経過の内視鏡所見をいただきました。

 

前回から一か月後の写真ですね。

 

初回内視鏡のずっと前からPPIの内服歴はありますが、その他特に追加の治療や内服はありません。

Fig.10b

Fig.10cFig.10d

Fig.10eFig.10f

 無治療で一か月後再検査の内視鏡像.

PPIは1回目の時からラベプラゾールナトリウム10mgを内服しており、追加内服なし.

 

 

皆さん、同じ症例ですよ…。

 

そうです。な~んにもないんですね。

 

ということで、結論はただの正常粘膜ですね。

 

蠕動によって粘膜が引っ張られて、隆起性病変のようにみえただけだと考えられます。

 

直腸の粘膜逸脱症候群と同じような病態でしょうね。

 

「考えられます」とか「でしょうね」とか無責任な文体で申し訳ないのですが、仕方ないですよね…。ESDで切除とかして病理が得られてないので断定はできないんですよ。

 

実際、このような症例時折遭遇して悩みますよね。

(つい先日も類似の症例をクリニックの先生からご相談いただきました。)

 

陥凹が目立つタイプの場合もあります。

 

結構蠕動が強い症例が多いので、検査中気を付けてみてください。診断の一助になるかと思います。

 

色んな内服薬を投与してみても、長期間ほとんどかわらないで何年もフォローになってる症例もあります。

 

診断的にこういうのがESDされてる症例報告もありますしね。

 

*内視鏡学会雑誌で診断的にESDを施行された症例の症例報告を目にした記憶があるのですが、今回探しましたが見つけれませんでした。

どなたか、何年のどの号だったかご存じの方はガストロペディアの担当者(Wall-E)お問い合わせからご教示いただければ幸いです。

 

皆さん、こういう症例もあるってことを覚えておきましょう。

 

丸茂達之先生、症例のご提示、本当にありがとうございました。

ぜひまた面白い症例がありましたら、教えていただけますとありがたいです。

 

 

こんにちは、Wall-Eです。

今回の回答割合はこのような結果となりました。

「6.その他」は、25%でした。 回答としては、「3.分化型腺癌」が多かったですね。

 

また次回もよろしくお願いします!

 

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