■ 症例
70歳代女性、便潜血陽性。
いきなりですが、これは何でしょうか?(Fig.1)
Fig.1 仮想展開像(大腸CT).
左が直腸(肛門側)、右が回盲部(口側).
これは、仮想展開像 と言われる大腸CT表示法で、大腸全体を切り開いて展開した表示です。Virtual gross pathology(VGP)、virtual dissection、filet viewなどの呼び方があります。見慣れない画像ですが、直腸から盲腸までの大腸全体を1枚の画像で俯瞰できることが最大の特徴です。
今回見ていただくのは、回盲部の仮想展開像です(Fig.2)。
Fig.2 仮想展開像(回盲部;Fig.1右端).
回盲部なのでバウヒン弁が目印となります(矢頭)。左半分が肛門側なので上唇、右半分が口側なので下唇になります。実は、通常のバウヒン弁よりも腫大して見えます。
バーチャル内視鏡で見てみましょう(Fig.3)。
リアル内視鏡と同じ感覚で見てみると、若干腫大して見えないでしょうか?
では、リアル内視鏡で見てみます(Fig.4)。
バウヒン弁から露出する発赤調の腫瘤が認められます(矢印)。再度、これをもとにバーチャル内視鏡を振り返って見ても、この腫瘤様構造は認識されません 。すなわち、バーチャル内視鏡の検査時には腫瘤はバウヒン弁内に収まっており、そのせいでバウヒン弁自体が腫大して見えたと考えられます。
では、その腫瘤の正体とは?
まさにそれは、CTの横断像で見ることができます!(Fig.5)
これは造影CTの冠状断像(体の前から背中に向かって縦切りの横断像)であり、バウヒン弁に潜む腫瘤の断面を見ることができます。バウヒン弁入ってすぐの回腸に、増強される腫瘤が視認されます(矢印) 。
さて、診断は何でしょうか?
内視鏡下生検で組織が採取されれば診断にたどり着きますが、この造影CT所見からも診断を絞ることができます。
回盲部腫瘤の鑑別診断として、悪性リンパ腫、神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)、消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)、脂肪腫、炎症性線維性ポリープ、小腸癌などが挙げられますが、強く増強される病変であれば、NETが第一に考えられます(Fig.6)。
手術が施行され、病理結果はNET G1でした(病理診断の紹介は割愛させていただきます)。
改めて、今回の症例の仮想展開像を振り返ります。正常例と比較してみましょう(Fig.7)。
Fig.7 仮想展開像(左 正常例、右 症例;Fig.2再掲).
バウヒン弁の形態は全く異なりますね。これだけで異常を指摘するのは難しいですが、仮想展開像での正常像に慣れておくと異常を認識しやすくなります。
■ Tips
仮想展開像やバーチャル内視鏡でバウヒン弁が大きく見えたら、リアル内視鏡とCT横断像で異常の有無や病変の性状を確認しましょう。
〈メルマガ紹介〉
この症例はCTCメルマガVol.62で紹介しています。
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