胃拡大内視鏡の基礎 坂暁子(新潟県立吉田病院 内科)

 

Ⅰ 正常胃粘膜(Helicobacter pylori未感染)の拡大内視鏡像

 胃底腺領域

規則的に配列しているヒトデ状の集合細静脈(regular arrangement of collecting venules: RAC)1)   

pin hole状のpitpitを取り囲む円形の白色調に認識される部位(以下white zoneさらにそれらを取り囲む多角形状の毛細血管から形成される (Fig 1).

Fig1

 

組織学的にはpin hole状のpitは腺窩white zoneは腺窩辺縁上皮に対応する (Fig 2).  

 

幽門腺領域

 楕円状のwhite zoneとそれに囲まれたコイル状の毛細血管から形成される (Fig 3). 

 

組織学的にはwhite zoneは腺窩辺縁上皮に対応する(Fig 4).

また幽門腺領域では集合細静脈は観察されない.

腺窩の視認も困難であるがwhite zonewhite zoneが重なった部分が腺窩と考えられる.

 

Ⅱ H. pylori胃炎の拡大内視鏡像

(Fig 5, A-B分類)

胃粘膜にH. pyloriが感染すると炎症→萎縮→腸上皮化生といった変化を来すことで胃粘膜の拡大内視鏡所見も経時的に変化する2) 

 

胃底腺領域の変化 

(B0B1B2B3A1A2)

 正常(H. pylori未感染)胃底腺粘膜(B0)でみられる円形pitH. pyloriに感染することで配列が不整となり楕円形からスリット状、溝状の構造へと変化する(B1B3).

 その後white zoneから形成される模様は管状模様(A1)から顆粒状・乳頭状模様(A2)に変化する.

 組織学的にはB2の約半数で胃底腺の萎縮(主として軽度)を認めB3の大部分で種々の程度で胃底腺の萎縮を認める3) 

またA1A2では偽幽門腺化生や腸上皮化生を認める.

 

【幽門腺領域の変化】

(A0A1→A2)

正常(H. pylori未感染)幽門腺粘膜(A0)で認める管状模様はH. pyloriに感染すると不規則な管状模様(A1)となった後に顆粒状・乳頭状模様(A2)へ変化する.

 

H. pylori除菌治療成功後の拡大内視鏡像 (Fig 6)

Fig6

 H. pylori除菌治療に成功した胃粘膜では,胃底腺残存領域にpin hole状の腺開口部が明瞭に観察される4) 

 

Ⅳ 早期胃癌の拡大内視鏡像5)

胃癌では,拡大内視鏡にて非癌粘膜との明瞭な境界,white zoneのサイズ,形状,配列の不均一,血管の口径不同,形状不均一を認める場合が多い.

以下に,組織型別の代表的な拡大内視鏡所見を呈示する.

 

 【分化型癌】 

) Complete mesh pattern (Fig 7)

 多角形状のネットワークを形成する網目状の血管からなるパターンであり,血管の断裂,細まり,消失をほとんど認めない.

このパターンを呈する病変は,大部分が粘膜内の高分化腺癌である.

 

) Irregular mesh pattern (Fig 89)

   

 多角形状のネットワークを形成する網目状の血管からなるパターンであり,血管の断裂,細まり,消失を認める.

また,ネットワーク内に介入する不整な血管が目立つ.

 

このパターンになると,中分化腺癌の割合が高くなり,粘膜下層浸潤を示すこともまれではない6) 

 

) Loop pattern (Fig 10) 

絨毛状,顆粒状あるいは乳頭状のwhite zoneに囲まれた領域にループ状の血管を認めるパターンである.

  

未分化型癌

Wavy micro-vessels (Fig 11) 

血管がお互いに連結することなく,曲線や螺旋を描きながら細まり,消失していく血管像である.

 

 

Ⅴ H. pylori除菌治療後に発見された胃癌の拡大内視鏡像 7)8)

H. pylori除菌治療後の胃粘膜に発見された胃癌は,しばしば萎縮性胃炎の拡大内視鏡像に類似し,診断が困難なことがある(Fig 12). 

H. pylori除菌後の胃粘膜では,領域をもった周囲粘膜と異質な粘膜に気付くことが重要である.

また,内視鏡診断を困難にしている原因の1つとして粘膜内癌巣の最表層に介在する非腫瘍上皮が考えられる (Fig 13ab).

 

 

文献 

1)Yagi K, Aruga Y, Nakamura A, et al. Regular arrangement of collecting venules (RAC): a characteristic endoscopic feature of Helicobacter pylori-negative normal stomach and its relationship with esophago-gastric adenocarcinoma. J Gastroenterol 40:443-452,2005

2)八木一芳、佐藤聡史、中村厚夫、他. Helicobacter pylori感染の進展と胃粘膜NBI拡大観察胃と腸 44: 1446-1455,2009

3)Yagi K, Nakamura A, Sekine A. Comparison between magnifying endoscopy and histological, culture and urease test findings from the gastric mucosa of the corpus. Endoscopy 34:376-381,2002

4)Yagi K, Saka A, Nozawa Y, et al. Prediction of Helicobacter pylori status by conventional endoscopy, narrow-band imaging magnifying endoscopy in stomach after endoscopic resection of gastric cancer. Helicobacter 19:111-115,2014

5)八木一芳、味岡洋一.胃の拡大内視鏡診断 第2版、pp43-104,2014

6)八木一芳、坂 暁子、野澤優次郎、他. 拡大内視鏡による早期胃癌深達度診断の可能性. 胃と腸 49: 86-94,2014

7)Saka A, Yagi K, Nimura S. Endoscopic and histological features of gastric cancers after successful Helicobacter pylori eradication therapy. Gastric Cancer. 19:524-530,2016

8)八木一芳、坂暁子、野澤優次郎、他. 除菌後発見胃癌の質的診断と範囲診断のコツ―特にNBI拡大内視鏡について―. Gastroenterol Endosc 57:1210-1218,2015

 

 

 

 

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