1.OTSCが合併症予防に有用であった3症例の報告

 

当院(NTT東日本関東病院 消化器内科)では、上皮性十二指腸腫瘍(腺腫・癌)に対する治療において、内視鏡切除後、最も問題とされる切除後潰瘍底の胆汁・膵液曝露による遅発性穿孔や出血等の致死的合併症に対して、潰瘍底の完全閉鎖ということを最優先に考えてきました。

 

当院での上皮性十二指腸腫瘍に対する治療法の変遷を示します(Fig.1)。

Fig1

 

この10年の中で、内視鏡治療〔EMR( endoscopic mucosal resection)/EPMR(endoscopic piecemeal mucosal resection)およびESD( endoscopic submucosal dissection)〕単独から内視鏡補助下腹腔鏡下全層切除術(endoscopic-assisted laparoscopic full-thickness resection;EALFTR)に切り替え、そこで懸念された腸管全層切除に伴う腫瘍の腹腔内暴露を回避するために考案したEVL (endoscopic variceal ligation)デバイスを用いた切除法LAEFTR-L (laparoscopy-assisted endoscopic full-thickness resection with ligation device)を試み、さらに現在では、今回のテーマであるOTSC(over the scope clip) を用いた潰瘍底閉鎖(ESD-OTSC)に取り組んでいるという時代的変遷があります。

 

まず、OTSCが十二指腸ESD後の合併症予防に有用であった代表的な症例を2例提示します。

  

Case①  十二指腸ESD 術中穿孔例 下行脚 15mm ツイングラスパー使用例

 

十二指腸下行脚、15mm大の扁平隆起性病変です。

病変中心部は術前に生検がなされており、粘膜下層に線維化が予想されました。

内視鏡の操作性も悪く、予想通り線維化も強かったため、少しずつ剝離をしていましたが、ほんの一瞬の筋層損傷をきっかけに、時間経過とともに、はっきりわかる穿孔となってしまいました。

これ以上のESDの継続は危険と判断し、粘膜全周切開を行った後に、スネアリングにて一括切除し、病変は問題なく切除できました。

その後、潰瘍底両サイドを補助鉗子のツイングラスパーで把持しOTSCを用いて潰瘍底を完全閉鎖しました。

OTSCを用いて、穿孔部とともに潰瘍底の完全閉鎖を行ったことで、術後の重篤な合併症を予防でき、術後2日で食事を開始、5日で退院となった症例です。

 

 

Case② 十二指腸ESD後潰瘍底に対する使用例 上十二指腸角 20mm

 

上十二指腸角に存在する20mmの隆起性病変です。

屈曲部に存在し、内視鏡の操作性も非常に悪い病変でしたが、術時間40分、術中穿孔なく切除は終了しました。

切除後の潰瘍底が30mm程度と広くなったため、LECS (laparoscopy and endoscopy cooperative surgery)での腹腔鏡側からの全層縫合も検討しました。

しかし、患者は大腸癌にて2回の開腹手術歴があり腹腔鏡での視野展開困難で、潰瘍底縫縮のために開腹術となる恐れもありましたが、OTSCを2セット用いて潰瘍底の左右半分ずつをそれぞれ吸引法にて縫縮、完全閉鎖が可能であり外科手術を回避した症例です。

術後2日で食事を開始し、5日で退院となりました。

 

 

最後の症例は、十二指腸ではなく胃のESD症例ですが、OTSCでの潰瘍底閉鎖が非常に有用でしたので提示いたします。

 

Case③ 胃ESD 術中穿孔症例 穹窿部 30mm 使用scope : GIF-TYPE 2TQ260M

 

病変は胃体上部から穹窿部にかかる30mm程度の早期癌です。

この病変は内視鏡が届きにくく、操作性が非常に悪い部位に存在していましたので、マルチベンドスコープを使用することで操作性を安定させ、また、糸付きクリップ法を用いて病変を牽引・カウンタートラクションをかけることで粘膜下層をしっかりと視認しながら剝離を進め、病変を一括切除しました。

術中の剝離操作に問題はありませんでしたが、剝離後の潰瘍底をみると、筋層が非常に薄い穹窿部に一部穿孔を認めました。

通常の内視鏡クリップでの穿孔部の閉鎖は、穿孔部の更なる拡大を招く恐れがあったため、OTSCを用いて潰瘍底全ての閉鎖を試みました。

ツイングラスパーを用いて、まずは穿孔部周囲の粘膜を寄せ、OTSCで閉鎖をしました。

続けて、さらに露出している潰瘍底を閉じるように粘膜を寄せ、最終的に3個のOTSCで完全に縫縮しました。

完全閉鎖ができたことで、発熱や腹痛の出現もなく術後経過は非常によく、術後5日で退院となった症例です。

 

 

【まとめ】

本来、OTSCは大きな消化管穿孔部や瘻孔の閉鎖・縫合、動脈出血の強力な止血などを内視鏡下に施行できる消化管全層縫合器として開発された画期的なデバイスであり、現在では医原性の消化管穿孔などに対しても応用され安全性、有用性なども報告されています。

 

内視鏡治療後の潰瘍底に対するOTSCの有用性も報告されており、われわれが取り組んでいる十二指腸ESD後の潰瘍底をOTSCで完全閉鎖するという手法は、病変の局在や潰瘍底の大きさによっては施行困難なことも想定され、今後の課題ではありますが、致死的な術後合併症を予防できる点で非常に有用と考えます。

 

【Conclusion】
OTSC closure of the post-ESD ulcer floor is feasible for preventing severe postoperative adverse events.

 

【References】
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□ Ohata K, Nonaka K, Sakai E, et al.  Novel technique of endoscopic full-thickness resection for superficial nonampullary duodnal neoplasms to avoid intraperitoneal tumor dissemination. Endoscopy int open 4:E784-E787 , 2016(in press)
Kirschniak A, Traub F, Kueper MA, et al. Endoscopic treatment of gastric perforation caused by acute necrotizing pancreatitis using over-the-scope clips: a case report. Endoscopy 39:1100-1102, 2007
Sandmann M, Heike M, Faehndrich M. Application of the OTSC system for the closure of fistulas, anastomosal leakages and perforations within the gastrointestinal tract. Z Gastroenterol 49:981-985, 2011
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