(上部消化管内視鏡診断アトラス)
 この時代だからこそ,ぜひとも「見て」学んでいただきたい一冊
 書評者:野中 康一(東京女子医科大学・消化器内視鏡科教授)

 

 インターネット社会となり,若手内視鏡医はネットで好きなときに興味がある領域だけ勉強すればよい時代となった。なってしまったというほうが表現は正しいかもしれない。大勢の前で内視鏡所見を読影するドキドキ感は縁遠いものとなり,貴重な症例を勉強できる勉強会へ積極的に参加しようという意気込みのある若手内視鏡医は絶滅危惧種になりつつある。

 

 さらに追い打ちをかけるように誰もが予想だにしなかった新型コロナウイルス感染症のパンデミックに襲われ,勉強会に参加するどころか開催もされない状況となった。時間はあるのに,勉強会に参加できない。学会に参加できない。そういう若手内視鏡医が増えているように思える。

 

 こういう時こそ「紙媒体」で勉強するのだ!! それが数年後に必ず実を結ぶ。「全集中の呼吸」で紙媒体(本)を読むのだ! 完全に流行りものの『鬼滅の刃』に便乗してみたが,自分自身は見たこともないので今ネットで「全集中の呼吸」を検索してみた。「骨身を削りながら修練を重ねる以外に習得方法はない」と記載があった。適当に言った割には,結構今回の書評の文脈と一致していた。

 

 時を戻そう(これもまた流行りの芸人を参考にした)。

 

 私自身も時間を持て余し,久しぶりに気になる本を数冊ネットで購入して読んでいる。その一冊が今回書評を書かせていただいている,長浜隆司先生・竹内学先生編集の『上部消化管内視鏡診断アトラス』である。決して書評の依頼書とともに本が送られてきたから目を通したわけではない。

 

 咽頭・食道・胃・十二指腸の症例がきれいな内視鏡写真と病理写真とセットで,シンプルで読みやすいスタイルで一冊にまとめられている。私が最も気になったのは,食道壁内偽憩室症である。これは今まで何回か出合ったことがあったが,何だかよくわからず無視した記憶がある。内視鏡診断とはそういうものである。知らなければ診断できないし,アトラスでたくさんの症例を頭にインプットしている内視鏡医は診断できるわけである。あー,早く食道壁内偽憩室症に出合いたい。そして,みんなの前でサラッと診断したい。そういう欲望に駆られるのは私だけであろうか。

 

 とにかく,名前さえ知らない里吉症候群の内視鏡写真から,今流行のラズベリー様の腺窩上皮型胃癌まで網羅されているのである。最も気持ち悪くて夢にも出てきそうなのが,十二指腸の単元にある回虫症の内視鏡写真(p.201)である。乳頭部に迷入した回虫を内視鏡的に捉えた奇跡の一枚である。回虫もこのタイミングで写真を撮影されるとは思っていなかったに違いない。ぜひこのアトラスを手に取って,ご覧いただきたい一枚である。このアトラスを一冊全部頭に入れておけば,若手内視鏡医は数年分,いや数十年分の勉強を数時間でできるのである。

 

 さらに,今回のこのアトラスの特徴は本のサイズである。A5サイズで小さく,持ち運びやすい。それなのに内視鏡写真・病理写真のサイズは見やすく枚数も十分である。わが家のペット犬のチョコちゃんの餌を計る計量器に乗せると474 gであった。これは『五木食品タカモリナポリタン3食入』と同じ重さである。かつて内視鏡アトラスといえば,大きくて重くて分厚くて,表紙は固い紙で,夫婦喧嘩になれば武器にもなり得る代物であった。この『上部消化管内視鏡診断アトラス』は持ち運びやすく,安全でもある。

 

 この内容で,この価格。秀逸としかいえない。いつ買うの? 今でしょ!

 

 

 

 

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