第6回 食道扁平上皮癌の内視鏡診断におけるTXIの使いどころ 
中村 純(福島県立医科大学附属病院 内視鏡診療部)

1.はじめに

オリンパス社の新型内視鏡システム「EVIS X1 CV1500」には、スクリーニング内視鏡における病変拾い上げの向上を目的に「構造色彩強調画像:Texture and Color Enhancement Imaging (TXI )」という画像強調機能が搭載された。TXIは、白色光(white light image : WLI)で得られた情報に基づき、「テクスチャ強調」「色調強調」「明るさ補正」の3つの要素をリアルタイムで最適化する画像技術であり、「テクスチャ強調」「明るさ補正」のみを用いた画像がTXIモード2、さらに「色調強調」を加えた画像がTXI モード1である。今回、TXIを用いた食道扁平上皮癌(esophageal squamous cell carcinoma : ESCC)診断の実際について提示する。

 

2.食道の観察とESCCの診断

ヨード染色法が、ESCCの拾い上げや範囲診断に古くから用いられている。当院では1.0%のヨードを使用しているが、ヨードの刺激性が強いことから、胸痛や胸やけなど、患者さんの苦痛を伴うことが問題である。また、ヨード染色で1視野に10個以上の不染帯を呈する「まだら食道」がESCC発症のハイリスクであるため、まだら食道では注意深い観察が必要である1)
一方、ヨード染色による患者さんの苦痛を来すことなくESCCを診断する方法として、画像強調内視鏡(image enhanced endoscopy : IEE)が開発され、Narrow Band Imaging(NBI)の有用性が多数報告されている2)。NBIを使用することで、拾い上げや範囲診断のみならず、深達度診断においてもNBI拡大内視鏡観察を用いた日本食道学会分類が提唱され、有用性が報告されている3)。しかし、まだら食道の場合、NBIではESCCの拾い上げが難しく、ヨード染色が必要となることが多い。そこで、TXIによるESCC診断能の向上が期待されている。

 

3.ESCC診断におけるTXIの使いどころ

Dobahiらは、「色差」を用いて、TXIモード1を用いることで、62.5%(37/59)でWLIに比べてESCCの視認性が向上したことを報告し4)、 TXIモード1は、WLIと比較してESCCと周囲粘膜の色調変化を強調することが示唆された。
われわれも、TXIを使用することで視認性が向上したESCC症例を経験した(【症例提示】参照)。また、ヨード染色にTXIモード1を組み合わせることで、ESCCの視認性がさらに向上し、確実な診断が可能となった症例も経験した。ヨード染色後の画像をWLIと比較すると、TXIではヨード不染となる癌部と周囲のヨード染色部位とのコントラストが、より協調される。これは、まだら食道を呈する患者さんにおいても同様であった。したがって、TXI下に観察することで、ヨードの濃度を1.0%未満の低濃度で使用することができ、患者さんの苦痛度も軽減できるメリットがある。なお、ヨード染色後のpink color signとして見えるESCCの境界診断も、TXI下でより明瞭となった。

 

4.おわりに

TXIは、まだら食道を背景とするESCCの確実な拾い上げに有用である可能性がある。また、低濃度のヨード染色と併用することで、苦痛の少ない検査も可能である。

 

【症例提示】

[症例1]

60歳代,男性.EVIS X1,GIF-EZ1500.

WLIで、胸部中部食道に軽度発赤している0-IIc型病変を認めた(Fig.1a)。NBI非拡大観察で、同部位はbrownish areaとして認識できる(Fig.1b)。

Fig.1 [症例1]0-IIc型 食道扁平上皮癌,a WLI,b NBI非拡大.

 

TXIモード1では、発赤したESCCが周囲粘膜とのコントラストにより、浅い陥凹性病変として、より明瞭に観察された(Fig.1c)。

Fig.1c  [症例1]TXIモード1.

 

また、TXIでは病変周囲の細かい血管も明瞭に視認できた。ヨード染色後の観察では、WLIでも病変の認識は可能であるが(Fig.2a)、TXIモード1を用いることで、非癌部であるヨード染色部と病変とのコントラストが強くなり、ESCCがより明瞭化した(Fig.2b)。

Fig.2 [症例1]0-IIc型 食道扁平上皮癌.a 1.0%ヨード染色後のWLI,b 1.0%ヨード染色+TXIモード1.

 

ヨード染色は時間経過で褪せていくが(Fig.2c)、 TXIを用いることで視認性が保持された(Fig.2d)。

Fig.2 [症例1] c ヨード染色後に少し時間が経過した,d TXIモード1 .

 

 

[症例2]

70歳代,男性.EVIS X1,GIF-EZ1500.

WLIで、胸部中部食道に発赤調の平坦な0-IIb病変を認めた(Fig.3a)。TXIモード1で、より認識しやすくなった(Fig.3b)。

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