クラミジア直腸炎 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

Chlamydia trachomatis proctitis

 クラミジア直腸炎は,性行為感染症(sexually transmitted disease ; STD)の原因として最も頻度の高いChlamydia trachomatis(C. trachomatis)が直腸粘膜に感染して起こる直腸炎である.

 C. trachomatisはLGV(lymphogranuloma venereum),trachoma,mouseの3つの血清型に分類される.血清型LGVは性病性(鼠径)リンパ節肉芽腫(lymphogranuloma venereum ; LGV)の原因菌として知られ,LGV以外の血清型(non LGV ; trachoma,mouse)は直腸炎以外に結膜炎を引き起こすが,性器クラミジア感染症の原因となり,男性では尿道炎,前立腺炎,副睾丸炎,女性では子宮頸管炎,卵管炎,骨盤腔炎,さらに肝周囲炎(Fitz Hugh Curtis syndrome)などが引き起こされる.1970年代以後,欧米の男性同性愛者を中心にnon LGVによる本疾患が報告されるようになり,本邦でも近年non LGVによる直腸炎の報告が散見されるようになった.現在,LGVの発生はほとんどみられず,STDとして蔓延しているのはnon LGV,特にtracomaであり,それにより引き起こされるクラミジア直腸炎が多数報告されている.

 感染経路としては,肛門性交により直接直腸粘膜に侵入する場合や,感染した腟分泌液による肛門部汚染の可能性が考えられている.また,性器感染からリンパ行性に直腸へ到達する場合がある.臨床症状としては,排便時出血や粘血便,肛門痛などみられるが,無症状である場合も多く,また症状が軽微なため放置されている場合も多い.

 内視鏡像はいわゆる“イクラ状粘膜”と称される,下部直腸優位の均一な白色調半球状小隆起性病変の集簇が特徴であるが,時に発赤,易出血性を呈し,隆起頂部にびらんや白苔を有することもある(Fig. 1~3)

Fig. 1 クラミジア直腸炎の内視鏡像.肛門縁より下部直腸にかけて連続性に密在する半球状小隆起を認め,いわゆる“イクラ状粘膜”を呈していた.隆起表面は周囲粘膜と同様の上皮に覆われていたが,周囲粘膜の一部は発赤調で易出血性がみられた.
Fig. 1 クラミジア直腸炎の内視鏡像.肛門縁より下部直腸にかけて連続性に密在する半球状小隆起を認め,いわゆる“イクラ状粘膜”を呈していた.隆起表面は周囲粘膜と同様の上皮に覆われていたが,周囲粘膜の一部は発赤調で易出血性がみられた.

Fig. 2 半球状小隆起は肛門側ほど密であった.
Fig. 2 半球状小隆起は肛門側ほど密であった.

Fig. 3 口側になるほど隆起は平低化し,疎に分布していた.
Fig. 3 口側になるほど隆起は平低化し,疎に分布していた.

 病理学的には半球状小隆起性病変は非特異的なリンパ濾胞炎(lymphoid folliculitis)であり,多数のリンパ濾胞の増生と慢性炎症細胞浸潤が特徴的である.したがって,診断する際には直腸部にリンパ濾胞増殖症・リンパ濾胞炎を呈する疾患が鑑別に挙がり,リンパ腫の特殊型であるMLP(multiple lymphomatous polyposis),直腸顆粒状隆起を呈する潰瘍性大腸炎やlymphoid follicular proctitisなどとの鑑別が必要であるが,病理組織所見のみでは確定診断は困難であり,発症機点や症状経過などの臨床情報を収集することが重要である.