0-IIb型早期胃癌 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

type 0-IIb early gastric cancer

早期胃癌の肉眼型分類は1962年,日本内視鏡学会で田坂1)によって提唱され,

現行の「胃癌取扱い規約第14版」〔日本胃癌学会(編),2010〕においても,これが改変引用され記載されている.

そのなかで0-IIb型(表面平坦型)は,“正常粘膜にみられる凹凸を超えるほどの隆起・陥凹が認められないもの”と定義され,

臨床所見,手術所見,病理所見の3者をそれぞれの時期に判定して,総合所見により記載するものとされている.

しかし,平坦という肉眼判定には大きな幅があり,主観的要素が入りやすいため,

0-IIbの使われ方は臨床重視の立場や病理重視の立場,総合的な立場など様々であった.

1971年,第13回日本内視鏡学会総会のシンポジウム“IIbをめぐって”(司会 : 白壁彦夫,福地創太郎)において,

便宜的な0-IIbの分類について以下の様に提唱された.

諸家の記載では,ホルマリン固定標本,新鮮標本で割面を含めた肉眼所見より全く平坦な,厳密な意味での0-IIbを“典型IIb”とし2)~4)

部分的に0-IIcまたは0-IIaの要素があるが全体としてはほとんど平坦なもの2)

もしくは臨床的に平坦に近いと思われる極めて浅いIIcまたは弱い高まりの0-IIaを“類似IIb”3)4)と表現されている.

また,IIbのみから構成されるものを“単独IIb”とし,

他の肉眼型を呈する癌(0-IIc型,0-IIa型など)の辺縁に連続して存在するものを“随伴IIb”と分類した2)~4)

そのほかの報告では“典型IIb”の同義語として“純粋IIb”と表現された報告も少なくない.

また,“単独・典型IIb”や“随伴・類似IIb”といった言葉を重ねる表現も認められる.

従来,典型IIbは微小癌がほとんどで頻度も低く,早期胃癌の1%以下の頻度と考えられてきた.

しかし,近年の報告によると

微小癌を除いた早期胃癌の検討においても単独IIbは1.5%,随伴IIbは6.3%5)と,その増加が示唆されている.

胃癌が肉眼的に0-IIb型を呈するには,癌組織量や組織型,組織異型度,粘膜内進展様式,背景粘膜の性状などが複雑に関係している.

微小癌は胃癌に特徴的な形状に乏しく,特に微小IIbにおいては通常内視鏡のみでは質的診断が困難なことが多い.

その質的診断にはNBI(narrow band imaging)併用拡大内視鏡が有用なことがある(Fig. 1)

近年,微小癌を除いた病理組織学的検討で,0-IIb面を構成する癌は,

(1) 非全層性低分化腺癌~印環細胞癌,(2) 側方進展型中分化型腺癌,(3) 低異型度高分化型腺癌,

の3群に分類可能であることが報告された6)

未分化型癌は胃固有腺管頸部から発生し,腺頸部を破壊しながら粘膜固有層内で増殖する.

そして,癌細胞量が極めて少ない時期(非全層性低分化腺癌─印環細胞癌)は形状変化のない非癌上皮で被覆され,0-IIb型を呈しやすい.

中分化型腺癌は粘膜固有層の中層から深層を広く側方に進展しうる分化型癌であり,

被覆上皮が細胞異型に乏しい癌あるいは非癌上皮が介在する病変においては,肉眼的な浸潤境界が極めて不明瞭となる.

低異型度高分化型腺癌は,細胞異型度の低い高分化型管状腺癌が周囲の非腫瘍腺管と同等の高さで粘膜全層あるいは表層を置換性に発育し,

境界部で0-IIb型を呈する頻度が高い.