ABC(D)分類 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)
胃癌の多くはH. pylori(Helicobacter pylori)既感染者から発生し,
また,H. pylori感染に伴い生じる胃粘膜萎縮は胃癌,特に分化型胃癌の発生母地と考えられている.
胃粘膜萎縮を簡便な血液検査で拾い上げるペプシノゲン(pepsinogen ; PG)法と,
血清H. pylori抗体価の組み合わせにより胃癌リスク診断,
言い換えれば,胃の“健康度”評価を行うのがABC(D)分類である.
H. pylori抗体(-)PG法(-)をA群,H. pylori抗体(+)PG法(-)をB群,PG法(+)をC群とするが,
概ね,A群はH. pylori未感染の人,
B群はH. pylori感染に伴う胃粘膜炎症はあるが萎縮は軽い人,
C群はH. pylori感染に伴う萎縮の進行した人と判断できる1).
なお,PG法(+)のうちH. pylori抗体(+)をC群,H. pylori抗体(-)をD群と分類することもある.
この場合,D群は萎縮の高度進展に伴いH. pyloriが棲めなくなった状態と推察される.
ABC分類と内視鏡検査を同じ日に行った人間ドック受診者を対象として各群での胃癌発見率を検討すると,
C群で1.87%(39/2,089)と最も高く,次いでB群の0.21%(7/3,395)であった.
A群2,802名の中から発見された胃癌は1例もなかった2).
C群はB群,A群に比べ有意に高率であり,B群とA群の間にも有意差を認めた.
また,Ohataら3)は男性が多くを占める職域検診でABCD分類を行い,
胃X線で経過観察した結果,胃癌の発生率はD群>C群>B群>A群の順であり,
A群では1例も発見しなかったと報告している.
すなわち,胃癌についてA群は超低危険群,C(D)群は高危険群と考えられる.
胃癌以外の疾患については,胃腺腫は全例C群で認められ,胃過形成性ポリープもC群で最も高率に認められた.
消化性潰瘍はB群で最も高率であり,特に十二指腸潰瘍で顕著であった.
一方,A群は消化性潰瘍も非常に低率であったが,逆流性食道炎は最も高率に認められた.
H. pylori感染,胃粘膜状態とABC分類,および代表的疾患の関連をFig. 1に示す.
ABC分類により胃癌をはじめとする上部消化管疾患のリスクを判断することが可能である2).
ABC(D)分類は胃の“健康度”評価,胃癌リスク診断であり,決して胃癌そのものを診断する手段ではないことを忘れてはならない.
画像診断法の選択や検査間隔のふるい分けなどで活用されることが望まれる.
参考文献
- 1)Inoue K, Fujisawa T, Haruma K. Assessment of degree of health of the stomach by concomitant measurement of serum pepsinogen and serum Helicobacter pylori antibodies. Int J Biol Markers 25 : 207-21
- 2)井上和彦,藤澤智雄,西隆司,他.ABC分類の有用性と問題点─ペプシノゲンの正常値の検討も含めて.Helicobacter Res 15 : 422-427, 2011
- 3)Ohata H, Kitauchi S, Yoshimura N, et al. Progression of chronic atrophic gastritis associated with Helicobacter pylori infection increases risk of gastric cancer. Int J Cancer 109 : 138-143, 2004
著者
- 井上 和彦 :川崎医科大学消化管内科
- 春間 賢 :川崎医科大学消化管内科