HIV(human immunodeficiency virus)感染者の消化管病変として問題となるのは,感染症と腫瘍性病変である.
HIV関連性胃病変のうち,感染症としてはサイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)感染症が,
腫瘍性病変としては悪性リンパ腫およびKaposi肉腫がCD4値の低下とともに発症する可能性が高くなる.
ただし,HIV感染者におけるCMV感染症の消化管病変は,食道および大腸での発症頻度が高く,胃のみに粗大病変を形成することは少ない.
また,HIV関連悪性リンパ腫は,DLBCL(diffuse large B-cell lymphoma),Burkitt’s lymphomaの頻度が高い1)とされるが,そ
の形態は,非HIV感染者の悪性リンパと比べ,差異はない.
Kaposi肉腫は,1872年にハンガリーの皮膚科医Motitz Kaposiによって最初に報告された,
HHV-8(human herpesvirus-8)の感染によって生じる非上皮性悪性腫瘍である.
HIV感染者における悪性腫瘍で最も多く,CD4値の低下とともに好発するが,CD4値が500cell/μlと比較的高値から発症することもある.
Kaposi肉腫の発症は,HHV-8の生体内でのリザーバーであるB細胞から血管内皮細胞への感染によるとされており,
発生部位としては皮膚が最も多いが,全消化管,肺,リンパ節などにも生じる.
消化管Kaposi肉腫は無症状のことが多いが,時に消化管出血や狭窄の原因となる.
Kaposi肉腫の内視鏡像として,典型例では赤~暗紫色の粘膜下腫瘍様の隆起が多発(Fig. 1a)2)し,
しばしば隆起の中央部にdelle様の陥凹や潰瘍形成を来す(Fig. 1b).
その特異的な色調および形態から内視鏡的診断は容易なことが多い.
しかし,非典型像(Fig. 1c)を呈することもあり,確定診断には生検組織による組織学的な診断が必要である.