消化器内視鏡分野での非可視光の照明光として用いる検討の歴史は古く,胃カメラ開発当初より行われていたが,多くの技術的困難により実用化し得なかった.
電子内視鏡の時代に入り,CCD(charge coupled device)が赤外線に感受性があることから赤外線内視鏡が開発され,種々の検討から現在の2波長赤外線内視鏡が登場した.
IRI(infrared imaging)とは,通常の内視鏡検査に用いられている可視光より長波長側の近赤外光を内視鏡の照明光とした検査法である.
2波長とは805nm付近(805±15nm)および940nm付近(905~970nm)の光であり,
これらが観察時に,赤外線透過フィルターとR,G,Bフィルターとの組み合わせにより順次照射され,
805nm付近は黄色に表示され,また940nm付近は青色に表示される.
単なる赤外線観察では,比較的モノトーンな黄色から青色へのコントラストのない画像になる.
肝機能検査で用いられるICG(indocyanin green)を用いることにより視認能,識別能が向上する.
ICGは血中で805nm付近に最大吸収ピークをもち,940nm付近では低い.
805nm付近の光はICGに吸収されるのに対し,940nm付近の光は吸収されることはなくCCDで検出されモニター上で青色に描出される.
また青色の視認能を向上させるために,IHb強調システムを応用して2段階の強調が可能である.
可視光では得られ難い粘膜深部の情報,特に血管情報を得られることから,
その発色パターンから胃腺腫,胃癌の鑑別診断,また分化型の早期胃癌の深達度診断(M,SMの鑑別)の一助として期待されている(Fig. 1).
また,通常内視鏡では不可視である粘膜下層の比較的太い静脈がIRI観察で明らかとなりESD(endoscopic submucosal dissection)などの術前の出血余地,術後出血の予知に役立つ.
さらには,通常無色透明な硬化剤がICG付加でIRI観察での食道静脈瘤硬化療法時には静的,動的にリアルタイムに硬化剤注入の状況が食道内,胃内分布(特に左胃静脈の胃壁枝)が明らかとなる(Fig. 2).