サイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)の感染には,初感染,再活性化,再感染の3つの様式がある.本邦では不顕性感染が多く,成人の80~90%が既に抗体陽性と言われている.したがって,実際には初感染例や再感染例より再活性化例が多い.悪性疾患,ステロイド・免疫抑制剤投与,後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome ; AIDS)など免疫能の低下した患者では,不顕性感染しているCMVが再活性化して発症する日和見感染症として認められる.免疫能が低下した患者に発症する腸炎では,まず疑うべきもののひとつである.また,近年,潰瘍性大腸炎の重症化,難治化要因としても注目されている.
その病態は,腸病変に伴い,下痢,腹痛など非特異的な腹部症状を呈する.肝炎,網膜炎,間質性肺炎,亜急性脳炎などの合併症を有することがある.内視鏡所見は,地図状あるいは打ち抜き様潰瘍が特徴的であるが,発赤,縦走潰瘍,アフタ様びらんなどもみられる(Fig. 1, 2).血管内皮細胞への感染により血管内皮の膨化,虚血,そして潰瘍に至ると考えられている.本症を疑った場合,内視鏡下生検で病変部(特に潰瘍底)から組織を採取し,病理学的に核内封入体や巨細胞を確認できれば診断される.さらに,モノクローナル抗体による免疫染色,抗原血症,血清抗体を併用すると感染診断率が向上する.なお,血液中でのみ抗原や抗体が確認されたCMV感染と,局所感染が確認されたCMV腸炎との判別を常に念頭に置く必要がある.