スキルス胃癌 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

scirrhous gastric cancer

スキルスという語源は,ギリシア時代にHippocratesが硬い物という意味でスキロスという語を用いている.

19世紀初めに癌腫を整理したLaennecはsquirrhe(硬癌)を癌腫の一型としている.

また,Mullerはscirrhus(硬質)をcarcinoma simplex(単純癌)とcarcinoma fibrosum(線維性癌)と同じ型に含めている.

この頃からスキルスは硬性癌を意味するようになっている1)

スキルス胃癌は線維増生を高度に伴い,肉眼的に硬さを感じさせるものであり,癌が深く浸潤する進行癌に多く,3型,4型を示すものが多い(Fig. 1)

Fig. 1a スキルス胃癌. X 線透視.
Fig. 1a スキルス胃癌. X 線透視.

Fig. 1b スキルス胃癌. 手術標本.
Fig. 1b スキルス胃癌. 手術標本.

線維増生を伴いやすい組織型としては,低分化腺癌,印環細胞癌,中分化型管状腺癌がある.

中村ら2)は,スキルスという言葉が肉眼的水準および組織学的水準での両方の意味を含むため混乱を与えるとし,

癌の形態ではなく,質的なことを意味するものであると述べている.

つまり,スキルス胃癌とは癌の肉眼形態や組織型を示すものではなく組織学的に高度の線維増生を示す胃癌の総称である.

また,linitis plastica型(以下,LP)胃癌という言葉もある.

語源はドイツの病理学者KonjetznyによるDer Magenkrebs(1938年刊行)のびまん性癌の項の中で,

leather bottle様の幽門狭窄を呈する胃癌をLPと記述されたのが始まりである.

4型胃癌の中で,原発巣が胃底腺粘膜領域に存在しているもの,または癌の粘膜内浸潤の主座が胃体部にあるもので,

胃壁が板状に肥厚し,全体的に管状収縮あるいはleather bottle状変形を呈するものをLP型胃癌と呼んでいる3)

4型胃癌,LP型胃癌はスキルス胃癌と同義語として使われていることが多い.

厳密にはスキルス胃癌の中に4型胃癌の多くが含まれ,それらの共通部分の中にLP型胃癌が含まれる(Fig. 2)4)