内視鏡的逆行性回腸造影 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

endoscopic retrograde ileography ; ERIG

1985年に川村ら1)が内視鏡下に挿入したガイドワイヤーに沿いイレウスチューブを回腸末端まで挿入し,

バリウムと空気で二重造影を行う選択的逆行性回腸造影法を考案した.

さらに1992年,竹中ら2)は,同法がゾンデ式小腸二重造影に比べ,

下部小腸や回腸末端におけるバリウムの付着や伸展性がよいこと,腸管の重なりが少ないなどのことから描出能が優れていることを証明した.

しかし,先端バルーン逸脱のため良好な二重造影が得られないなどの問題点を有したため,

1995年に竹中ら3)はチューブ先端の逸脱を防ぐために改良を加え,逆行性回腸造影用チューブを考案し,その手技を確立させた.

大腸内視鏡検査と同様の前処置で,用いる造影剤は,以前は50~70w/v%の低濃度のバリウムを使用していたが,

回腸に残った前処置液でバリウムが付着不良となるために,現在では100w/v%のバリウムに5~10mlの消泡剤を混ぜ,100~250ml使用している.

手技の実際であるが,大腸内視鏡で回腸末端まで観察後,スライディングチューブを挿入し,鉗子口を通じガイドワイヤーを回腸末端まで挿入する(Fig. 1a)4)

内視鏡を抜去し,ガイドワイヤーに沿って全長240cmのチューブを回腸末端まで送り込む(Fig. 1b)4)

その後,回腸に留置した先端バルーンに空気30ml,上行結腸に留置した後方バルーンに空気150mlを入れ,造影チューブの固定を確認後,スライディングチューブを抜去.患者を腹臥位頭低位にしてバリウムを注入する.

体位変換でできるだけ口側にバリウムを移動させた後に,鎮痙剤を静注,空気を注入し二重造影を行う(Fig. 1c)

Fig. 1 内視鏡的逆行性回腸造影.〔長浜孝,他.選択的逆行性回腸造影.胃と腸 43 : 1255-1259 , 2008 より改変して転載〕
Fig. 1 内視鏡的逆行性回腸造影.〔長浜孝,他.選択的逆行性回腸造影.胃と腸 43 : 1255-1259 , 2008 より改変して転載〕

この際,空気が先行すると良好な二重造影が得られないため,あらかじめ大腸内視鏡抜去時にできる限り空気を吸引しておくことも重要である.

この手法でBauhin弁から口側約1mの回腸の二重造影が可能となった(Fig. 2)

Fig. 2 Crohn 病.内視鏡的逆行性回腸造影(従来法).回腸に長い狭窄( → )を認める.
Fig. 2 Crohn 病.内視鏡的逆行性回腸造影(従来法).回腸に長い狭窄( → )を認める.

また,近年ダブルバルーン小腸内視鏡(double balloon enteroscopy ; DBE)を用い,内視鏡抜去後にオーバーチューブ内に挿入する小腸X線造影用ゾンデ(滑りがよく,腰が強いポリ塩化ビニル)が考案された5).