本邦における原因不明消化管出血の定義
消化管出血患者の10~20%程度は初回の出血源検索で出血源が同定できない.
これらの患者の約半数は出血を繰り返すとされ,入院の反復や多量の輸血を必要とする1).
これら出血源が特定できない消化管出血を原因不明消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding ; OGIB)と称している.
原因不明の消化管出血といっても,どのような検査をどれくらい施行して原因が不明なのかで意味が大きく異なってくる.
そこで本邦では2010年に,上部消化管および下部消化管内視鏡検査で出血源が不明な消化管出血をOGIBと定義した
(第5回カプセル内視鏡の臨床応用に関する研究会2010・日本カプセル内視鏡研究会用語委員会).
ここでは,上部消化管とは十二指腸Vater乳頭部より口側を指し,また下部消化管とは大腸である.
米国消化器病学会では2007年に上下部消化管内視鏡検査,小腸X線検査(小腸造影の他にCTなどによるバーチャル小腸検査を含む)を行っても
出血源が不明な消化管出血をOGIBと定義しており,本邦の定義と異なっている2).
したがって,文献を読む場合には注意が必要で,常にOGIBをどのように定義しているのかを確認する必要がある.
顕在性出血と潜在性出血
OGIBは顕在性出血と潜在性出血に大きく分けられている(Fig. 1).
顕在性出血(overt bleeding)とは,下血や血便などの可視的出血で,
出血の持続(on going)と出血の既往(previous)に分けられている.
下血(melena)は通常上部消化管出血でみられる黒色便を,
血便(hematochezia)は通常下部消化管で認められる赤色便(鮮血便)を指すものとして用語が定義されている.
潜在性消化管出血(occult bleeding)とは,再発または持続する鉄欠乏性貧血および/または便潜血陽性患者と定義される.
鉄欠乏性貧血で便潜血陰性の患者を消化管出血とすることに違和感を覚えるが,
便潜血検査は,ヘモグロビン法,グアヤック法などで測定する対象が異なること,
感度は人為的に設定されたものであること,間欠的出血では検出が困難な場合があることなどの理由により,便潜血陰性でも消化管出血を否定することはできない.
この潜在性消化管出血の定義は消化管出血であることが前提であるので,消化管出血以外である尿路出血や性器出血などの消化管出血以外の出血は除外されており,
消化管出血による鉄欠乏性貧血だが出血がとらえられていない症例をここに分類している.
定義にこだわる理由は,消化管出血以外の出血源を精査することなく,鉄欠乏性貧血をOGIBと安易に診断することに警鐘を鳴らすためである.
便潜血陽性患者の扱い