咽頭(pharynx)・喉頭(larynx)は鼻腔・口腔と食道の間に存在し,
消化器(消化管)と呼吸器(気道)が分かれる部位であり,咀嚼・嚥下・構音・発声など重要な機能を司っている.
消化器内視鏡分野の書籍では咽喉頭領域として一緒に扱われることが多いが,用語の解説を行うため本稿では分けて記載する.
また,臓器の形態が消化管と比べて複雑であるため,消化器内視鏡(経口内視鏡)で観察される部位を中心に解説する
咽頭・喉頭の位置関係と亜分類
咽頭(pharynx)
咽頭は上方が広く,下方が狭くなる漏斗状の器官で,
頭蓋底の下部から第6頸椎までおよそ12cmの長さがあり,上方から3つの部位(鼻部,口部,喉頭部)に分類される.
日常臨床ではこれらの解剖用語よりも,上咽頭,中咽頭,下咽頭の名称が用いられることが多く,
「頭頸部癌取扱い規約」1)でも後者の分類が使用されている.
咽頭の亜部位は骨の高さを基準に決められているため,X線やMRIの矢状断画像では理解しやすいが,
内視鏡で亜部位の境界を正確に同定することは難しい.
各部位について,「頭頸部癌取扱い規約」1)では下記のように定められている(Fig. 1)2).
1)上咽頭 : 硬口蓋,軟口蓋の移行部から頭蓋底まで(前方は鼻腔)
亜部位
後上壁 : 硬口蓋と軟口蓋の接合部の高さから頭蓋底まで
側壁 : ローゼンミューラー窩(咽頭陥凹)を含む
下壁 : 軟口蓋上面
2)中咽頭 : 硬口蓋,軟口蓋の移行部から舌骨上縁(または喉頭蓋谷底部)の高さまで
亜部位
前壁 : (1) 舌根,(2) 喉頭蓋谷
側壁 : (1) 口蓋扁桃,(2) 扁桃窩および口蓋弓,(3) 舌扁桃溝(口蓋弓)
後壁
上壁 : (1) 軟口蓋下面,(2) 口蓋垂
3)下咽頭 : 下咽頭は舌骨上縁(または喉頭蓋谷底部)の高さから輪状軟骨下縁の高さまで
亜部位
咽頭食道接合部(輪状後部) : 披裂軟骨と披裂間部の高さから輪状軟骨下縁まで
梨状陥凹 : 咽頭喉頭蓋ひだから食道上端まで
外側は甲状軟骨,内側は披裂喉頭蓋ひだの下咽頭面と被裂軟骨および輪状軟骨を境界とする
咽頭後壁 : 舌骨上縁(喉頭蓋谷底部)の高さから輪状軟骨下縁までならびに,一方の梨状陥凹先端から他方の先端まで
*代表的な用語の由来 梨状陥凹(piriform sinus)は,梨(なし)を意味するラテン語(ピルム,pirum)に由来し,
披裂軟骨(arytenoid cartilage)は,柄杓(ひしゃく)を意味するギリシア語(アリュタイナ)に由来している.
喉頭蓋谷(epiglottic vallecula)は,舌と喉頭蓋の間に存在する陥凹であり,
谷を意味するラテン語(valles)に指小辞-cullaがついており,「小さな谷」の意である3).
喉頭(larynx)
喉頭は前頸部の正中部で皮膚と舌骨下筋群で覆われ,
第4~6頸椎の高さにわたる長さ約5cmの管状器官である.
喉頭は上方から喉頭口,喉頭腔に分類される.
喉頭口は喉頭の入口を形成する部位で,
前方は喉頭蓋の上縁,側方は披裂喉頭蓋ひだ,後方は披裂間ひだで囲まれている.
喉頭腔は喉頭口より下方で,輪状軟骨の下縁までの高さをいう.
喉頭腔は声帯ひだにより上・中・下の3部に分類される.
それぞれ仮声帯(前庭ひだや喉頭前庭ともいわれる),声門(声帯ひだ+声帯裂),声門下腔とほぼ同義である.
「頭頸部癌取扱い規約」1)では,声門を基準に声門上部,声帯,声門下部に分類されている.
声帯ひだを境に分類されるため,内視鏡的にも亜部位の同定は容易である.
披裂部は,喉頭の後方に存在する披裂軟骨付近を指す言葉であるが,
解剖学的には披裂間ひだから小角結節を含む領域に相当する.
披裂軟骨の上方に小角軟骨があり,
披裂部にみられる隆起(小角結節)は披裂軟骨ではなく,小角軟骨により形成されている.
喉頭の亜部位について,「頭頸部癌取扱い規約」1)では下記のように定められている(Fig. 2).
1)声門上部 : 喉頭入口部を構成する部位とそれ以外の部位に分類される
喉頭入口部を構成する亜部位
(1) 舌骨上喉頭蓋(先端・舌面・喉頭面を含む)
(2) 披裂喉頭蓋ひだ(喉頭面)
(3) 披裂
喉頭入口部を除く亜部位
(4) 舌骨下喉頭蓋
(5) 仮声帯
2)声門 : 声帯ひだと声門裂をあわせた部位をいう
(1) 声帯
(2) 前連合
(3) 後連合
3)声門下部 : 声帯ひだの高さから輪状軟骨下縁の高さまでをいう
*代表的な用語の由来 喉頭蓋(epiglottis)は声門を意味するギリシア語(グローッティス)に上を意味する接頭辞epiが付いたものである.
声帯ひだには多くの名称があるが,vocal cord,vocal foldなどが一般的である.
vocalの由来は声を意味するラテン語(ウォークス,vox)である3).
消化器内視鏡の所見と用語
咽頭の内視鏡所見
中咽頭(Fig. 3, 4a):
内視鏡を経口的に挿入した場合,画面の上方には舌,下方には口蓋が見える.
口蓋垂から左右の口蓋扁桃にかけては一画面に入りきらないことが多いため,側壁の観察は左右別々に行う.
画面の下方から正面に当たる咽頭後壁は,経口内視鏡では観察しやすいが,経鼻内視鏡では接線方向となるため,平坦な病変は観察しにくくなる.
一方で舌根部(前壁側)は,経口内視鏡では接線方向となるうえに反射を惹起しやすく,観察しづらい.
喉頭蓋谷は舌根部と舌喉頭蓋ひだの間に存在する陥凹で,
頸部を前屈させると喉頭蓋が後壁側に寄るため観察しやすくなり,後屈させると観察しにくくなる.