大腸低分化腺癌 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

poorly differentiated adenocarcinoma in colon and rectum

 大腸の低分化腺癌は比較的まれな組織型で,その頻度に関しては多数の報告をまとめると全大腸癌の1.9~7.7%とされ1),「大腸癌取扱い規約」では充実型(por 1)と非充実型(por 2)に分類している2).その特徴として,局在は右側結腸に多い傾向があり,進行癌で見つかることが多く,早期癌の報告はまれである.また低分化腺癌では腫瘍径が小さいうちから粘膜下層以深に浸潤し,高率にリンパ管侵襲,静脈侵襲,リンパ節転移を来すと考えられている.

 進行癌の肉眼型は,菅井ら3)の報告では2型が45.3%と最も多いが,高分化腺癌と比べて3型(21.4%),4型(9.5%)の頻度が高いとしている.

 早期癌の内視鏡所見の特徴として,陥凹を有する表面型病変が多く,約半数に褪色調領域を示す傾向が認められるとまとめている4).拡大内視鏡所見では粘膜全層が腺管形成のない低分化な腫瘍細胞に置換されることで,粘膜筋板の保たれた粘膜内からSM微小浸潤程度の病変でもVn型pit patternを呈するとされている.

 大腸低分化腺癌の発育進展に関しては,胃癌と異なり初めから低分化腺癌として発生するものは少なく,高分化腺癌からの脱分化により生じるものが主経路であると推測されている5).また鋸歯状病変の癌化および脱分化により発生したと考えられる症例も報告されている.当センターで経験した早期の低分化腺癌2症例を提示する(Fig. 1, 2)6)

Fig. 1a〔症例1〕 内視鏡画像.横行結腸に15 mm 大の境界がやや不明瞭な不整形の発赤とびらんを認めた.
Fig. 1a〔症例1〕 内視鏡画像.横行結腸に15 mm 大の境界がやや不明瞭な不整形の発赤とびらんを認めた.

Fig. 1b〔症例1〕  切除標本病理組織像.
Fig. 1b〔症例1〕  切除標本病理組織像.

Fig. 1c〔症例1〕 切除標本病理組織像(b黒枠の拡大).
粘膜表層から粘膜下層浅層まで,腫瘍細胞が腺管構造をとらずに浸潤し,粘膜筋板は消失していた.病理診断は,denocarcinoma,por 1,深達度SM(1 ,200μm),ly0,v0,n0 であった.
Fig. 1c〔症例1〕 切除標本病理組織像(b黒枠の拡大). 粘膜表層から粘膜下層浅層まで,腫瘍細胞が腺管構造をとらずに浸潤し,粘膜筋板は消失していた.病理診断は,denocarcinoma,por 1,深達度SM(1 ,200μm),ly0,v0,n0 であった.