大腸の主たる上皮性腫瘍は腺腫と癌であるが,本稿では腺腫について欧米との認識の違いも含めて概説する.本邦では「大腸癌取扱い規約 第7版補訂版」1)に,腺腫は良性上皮性腫瘍の中に分類され,(1) 管状腺腫,(2) 管状絨毛腺腫,(3) 絨毛腺腫,(4) 鋸歯状腺腫の4つに分類されている.一方で,2010年に発刊されたWHO Classification of Tumours of the Digestive System2)の中には,腺腫および関連病変はTable 1のように分類記述されている.
周知のとおり,欧米では明らかに浸潤した病変を癌と診断するが,本邦の粘膜内癌を癌とは診断しないし,微小浸潤は偽浸潤(pseudoinvasion)と評価する傾向がある.若い先生方は,欧米でいうadenomaという用語が,基本的には本邦でいう粘膜内癌(carcinoma in situ)を含んでいることに留意いただきたい.大腸癌は大腸粘膜から発生し,欧米の考え方は全く科学的ではないが,社会的あるいは政治的背景の違いから歴史的に粘膜内癌を癌と診断しない.この矛盾を本邦が中心となって是正していく必要がある.
先人の努力の成果のひとつとしてVienna分類(Table 2)3)があるが,本邦の「大腸癌取扱い規約」の定義,WHO分類,Vienna分類など分類が多く,臨床医が戸惑っていることは否めない.いずれにしても,英語で大腸腺腫・早期癌の論文を執筆したり海外で発表する場合は,このような世界の状況をよく理解したうえで整合性をとって腺腫や早期癌を表現しないと欧米の先生に理解されないことを認識しておくことが重要である.