尖圭コンジローマは,HPV(human papilloma virus)の直接感染によって男女の外性器に好発する良性疾患(ウイルス性疣贅)である.主として,性交渉やその関連行為により感染し,感染後,肉眼で観察される大きさになるまで3週間から8か月程度を要する.若年者に多く,男性では陰茎,女性では外陰部が好発部位であるが,時に尿道や肛門に発生し,特に同性愛者では肛門周囲の病変が増加していることが指摘されている.しかし肛門性交歴がない場合にも,肛門尖圭コンジローマが発症したとする症例報告があり,サウナや公衆浴場などからの感染が推測されている.
肛門尖圭コンジローマの肉眼形態は,透明感のある白色調の数mm大から1cmを超える疣状の隆起が多発し,さらに集簇・融合して,乳頭状,時には鶏冠状の隆起を呈し,肛門管移行帯を中心に正常粘膜を介して不連続に直腸粘膜に拡がることがあると報告されている(Fig. 1a).
組織学的には,錯角化を伴う過角化,表皮肥厚,乳頭腫症であり,表皮有棘層から角層下の濃縮した核と空胞化した細胞質を有するkoilocyteの存在を特徴とする良性病変であるが,悪性化の報告も散見される(Fig. 2).HPVの持続感染により扁平上皮にはしばしば異型上皮,さらには上皮内癌が発生するため,子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia ; CIN)と対応し,肛門上皮内腫瘍(anal intraepithelial neoplasia ; AIN)という概念で呼ばれている.AINはさらに組織学的に,AIN1 : 軽度異形成,AIN2 : 中等度異形成,AIN3 : 高度異形成の3群に分類され,AIN1に関しては半年ごとの経過観察でよいが,AIN2,3では肛門癌に進行する可能性があり,治療の適応と考えられている.
NBI(narrow band imaging)拡大内視鏡の開発・導入は,特に扁平上皮領域である咽頭・食道領域で有用性が認められているが,肛門部の扁平上皮領域の観察にも用いることができ,肛門部の尖圭コンジローマの存在診断だけでなく,拡張・蛇行した血管所見からAINを鑑別できる可能性が示唆されている(Fig. 1b).