急性出血性直腸潰瘍は,河野ら1)により初めて報告され,広岡ら2)によって疾患概念が提唱された.その後,症例の蓄積と検討が重ねられ,臨床的特徴は以下の内容に要約される.(1) 重篤な基礎疾患を有する高齢者に多い.(2) 発症は突然で,無痛性大量の血便あるいは肛門出血で始まる.(3) 潰瘍は歯状線に接するかその近傍あるいは下部直腸に限局し,不整形,地図状,輪状あるいは全周性の場合もあり,多発性ないし単発性で,露出血管を伴うことがある(Fig. 1).(4) 経過は,一般に良好であるが,基礎疾患の重症度に依拠する傾向がある.
発症の原因はストレス,血流障害などが挙げられ,さらにNSAID(nonsteroidal anti-inflammatory drug)坐剤使用例やサイトメガロウイルス感染例も報告されている3).本疾患は複数の誘因で発症する症候群とする見解もみられる4).