急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion ; AGML)という概念を初めて提唱したのはKatzら1)であり,
1965年にacute erosive gastritis,acute gastric ulcer,hemorrhagic gastritisの3つの病態に分類し報告した.
日本においては,1973年に川井ら2)が“急性に発症し,内視鏡あるいはX線で所見がみられる”病態の包括的な概念,
すなわち一種の症候群として急性胃病変(acute gastric lesion,AGL)を提唱した.しばらくはこの両者が使われ,
また,いずれの用語を用いるかの議論がなされた時代もあったが,“急性胃粘膜病変”という用語が,病変の存在する深さを表すものではなく
“粘膜面に存在する病変”という意味で用いられる場合には,両者に違いはないことを川井らのグループも指摘している.
並木ら3)は,急性胃粘膜病変の診断基準を“突発する上腹部痛,吐き気,嘔吐,時に吐血・下血の症状を伴って発症し,
この際早期に内視鏡で観察すると,多くの場合,胃粘膜面に急性の異常所見,すなわち明らかな炎症性変化,出血,潰瘍性変化(びらん,潰瘍)が観察されるもの”と定義している.
これらの疾患概念が生まれた時代背景には,診断技術の目覚ましい進歩があったことが挙げられる.
急性期に積極的に緊急内視鏡検査が行われるようになり,様々な内視鏡所見が確認されるようになった.
得られた所見を病因論的にではなく,症候論的,あるいは治療論的立場からまとめられた臨床的概念といえる.
内視鏡所見としては,多発性のびらんや浅い潰瘍を認めることが多く,活動性の出血や凝血を伴う.
しばしば,びらんや潰瘍は地図状を呈した特徴的な内視鏡所見を呈する(Fig. 1).
時に,同様の病変を十二指腸にも認めることもある.
急性胃粘膜病変の主な成因をTable 1に示す.
筆者ら4)は,今から20年以上前に他施設で内視鏡検査後に発症した急性胃粘膜病変患者の血清,病理学的検討を行い,
急性胃粘膜病変の一部は,Helicobacter pyloriの初感染であることを報告した.
前後して,Sugiyamaら5)からの報告も相次ぎ,内視鏡後急性胃粘膜病変の原因としてのHelicobacter pyloriの役割が認知されるに至った.
検査ごとの洗浄と高水準消毒が普及するとともに,本病態はみられなくなっていった.