注腸X線造影検査の歴史
1904年,Schuleにより,それまでの経口投与による大腸造影法から注腸法が開始されたが,当時は充満像やレリーフ像が主体であった.
1923年にFischerが二重造影法を報告しているが,当時は二重造影像の得られる範囲は限られていた.
1955年にスウェーデンのWelinは高濃度バリウムを脾彎曲部まで注入し,一度バリウムを排泄させ,次にS状結腸中部までバリウムを再注入後空気を注入,体位変換で盲腸までバリウムを移動させ広範囲の二重造影に成功した.
1961年,Brownはそれまでの洗腸による前処置から,塩類下剤を使用した洗腸を行わない前処置法を開発し,二重造影に必要な最小限の造影剤を注入後に空気を注入する現在の方法が確立された.
本邦では白壁らにより開発された上部消化管の二重造影法が,1969年頃から注腸X線検査へと導入され,刈谷,西澤,吉川らの業績により二重造影法が広く普及した.
また,その後の造影剤の改良,適正濃度の研究の結果,それまで20%程度であったfine network patternの描出率は約70%へと向上した.
これら先人達の努力により,微細・微小病変の描出・鑑別診断が可能となり,潰瘍性大腸炎,腸結核,Crohn病,虚血性腸炎など炎症性腸疾患における病変の推移や治療効果の判定が可能となった.
1975年,白壁は種々の大腸の炎症性疾患の診断に微細所見を組み合わせる新しい点・線・面概念を発表し,消化管の変形学が確立した.
腫瘍性病変に関しては1973年の丸山による「大腸癌の変形5段階理論」,1983年の牛尾による「大腸癌の側面像に関する研究」で大腸癌のX線診断学は確立した.
陥凹型大腸腫瘍に関しては1977年,刈谷により初めて二重造影像が提示され,その後,1983年以降,工藤らの精力的な努力により,陥凹型早期大腸癌の診断は確立した1).
注腸X線造影検査の実際
現在は,腸洗浄を行わないBrown変法を用いた前処置で二重造影像を撮影する直接二重造影法(one stage double contrast method)が行われている.
検査は被検者を左側臥位にして肛門よりゾンデを挿入し,腹臥位頭低位として70%前後のバリウム懸濁液を200~300ml注入する.
次いで,二連球をゾンデに装着,徐々に送気して盲腸まで伸展させる.
ゾンデを抜去後,体位変換によりバリウムを口側に移動させながら二重造影像になった直腸・S状結腸から撮影を開始し(Fig. 1),
順次,下行結腸(Fig. 2),脾彎曲,左側横行結腸を撮影後,再度,体位変換によりバリウムを左側大腸に移動させ,肝彎曲,上行結腸,盲腸を撮影していく(Fig. 3).
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注意点を以下に述べる.
(1) バリウムの付着不良を防止するためには,体位変換を用いてバリウムの移動を効率よく行うことである.
口側腸管に空気が先行しても,体位変換でバリウムが移動可能であれば問題はない.
(2) 特に高齢者では横行結腸,上行結腸の攣縮が起こりやすく,ひとたび攣縮が起こると,よい二重造影の撮影は困難,不可能となる.