特殊な直腸肛門部腫瘍 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

 肛門部の悪性腫瘍は,「大腸癌取扱い規約」1)Table 1のように分類されている.

Table 1 大腸癌取扱い規約における肛門部悪性腫瘍の分類
Table 1 大腸癌取扱い規約における肛門部悪性腫瘍の分類

第59回大腸癌研究会において施行されたアンケート集計報告(1,540例)によれば,肛門管悪性腫瘍の組織別発生頻度は,腺癌・粘液癌の直腸型が802例(52.1%),次いで肛門腺由来が227例(14.7%),扁平上皮癌226例(14.7%),痔瘻合併癌106例(6.9%),悪性黒色腫60例(3.9%),類基底細胞癌24例(1.6%)と続く.文献の集計では,アンケートに比べると悪性黒色腫や類基底細胞癌の割合が高かった2)

 本稿では特殊な直腸肛門部腫瘍として,扁平上皮癌,悪性黒色腫,類基底細胞癌について述べる.


扁平上皮癌 

本症は肛門管の移行帯上皮,または肛門上皮から発生し,角化型,非角化型が認められる.ヒト乳頭ウイルス(human papilloma virus ; HPV)の関与が報告されている.本症の症状は,肛門腫瘤,出血,肛門痛で,鼠径リンパ節への転移が20~30%と高率であるため鼠径部の腫瘤を触知することがある.本症は放射線感受性が高いため,現在では化学放射線治療が第一選択である(Fig. 1)3)

 

Fig. 1a 肛門管扁平上皮癌.大腸内視鏡像.肛門管前壁中心に半周性を占める隆起性病変(矢印).
Fig. 1a 肛門管扁平上皮癌.大腸内視鏡像.肛門管前壁中心に半周性を占める隆起性病変(矢印).

Fig. 1b 肛門管扁平上皮癌. 化学放射線療法の1 年2 か月後,腫瘍はみられず.
Fig. 1b 肛門管扁平上皮癌. 化学放射線療法の1 年2 か月後,腫瘍はみられず.

悪性黒色腫

 歯状線付近から発生し,通常はメラニン色素の存在により灰色,褐色,または黒色を呈するが,無色素性,低色素性の黒色腫も10~30%存在する.形態は隆起型をとることが多い.皮膚科領域では生検は予後を不良にするとされ禁忌であるが,直腸肛門部の悪性黒色腫の場合には,避けるべきであるとする意見と,生検と予後との明らかな相関はみられていないとする意見がある.血行性遠隔転移が多いことから予後は悪く,欧米での5年生存率は10~15%,本邦でも4.6%である.今のところ外科治療が主体で,化学療法・放射線療法は有効でない(Fig. 2)