特殊型食道癌とは,上皮性悪性腫瘍(carcinoma)のうちで重層扁平上皮癌1)2)以外の組織型を示すことが多い(狭義).
非上皮性悪性腫瘍も含めて特殊型食道癌と提示すること(広義)もあるが,通常は非上皮性については,悪性リンパ腫などと個々に称す.
特殊型食道癌(狭義)は,扁平上皮癌と関連の深い組織型が多く,類基底細胞癌・癌肉腫・腺扁平上皮癌・粘表皮癌が挙げられ,
Barret carcinomaは別項で記載する.
また,神経内分泌腫瘍も特殊型食道癌に含まれる.
扁平上皮癌と関連の深い癌
類基底細胞癌〔basaloid(-squamous)carcinoma〕
基底細胞に類似した小型の細胞が,充実胞巣ないし索状に増殖し,時に不規則な腺様・小嚢胞様構造を形成する.
さらにこの癌の特徴として,胞巣内外に硝子様(基底膜様)物質の沈着を認める.
また,一部で導管様分化を伴うものもある.上皮内には,扁平上皮癌を有することが多く,浸潤部でも扁平上皮癌を伴うことがある.
癌肉腫(carcinosarcoma)
癌肉腫には間葉系性格を有した紡錘形ないしは多形成腫瘍細胞を伴う癌腫,さらに腫瘍性の骨,軟骨形成を示す腫瘍がある.
軟骨や骨などの多分化像を伴うときは,それぞれの分化像を付記する.
本腫瘍は肉眼的にしばしば細い茎を伴っていることが特徴である.
また,反応性間質細胞の増生が主であるものも癌肉腫とする.
癌肉腫では扁平上皮癌成分を一部に併せもつ場合が多い(Fig. 1).
腺扁平上皮癌(adenosqamous cell carcinoma)
腺癌と扁平上皮癌の両成分から成る癌である.
それぞれの成分が容易に認識できるような癌に限定する.
ただし,いずれかの成分がごく小範囲(おおよそ20%以下)に限局している場合は,広範囲を占める像を主診断とし,
小範囲を占める像を付記するにとどめる(例 : squamous cell carcinoma with adenocarcinoma component).
粘表皮癌(mucoepidermoid carcinoma) 扁平上皮癌の一部に粘液含有(腺癌)細胞を含む癌で,通常明瞭な腺管構造は認められない.
腺癌細胞は杯細胞または印環細胞型で,粘液は時に細胞間や間質へ流出する.
腺様嚢胞癌(adenoid cystic carcinoma)
唾液腺の同名腫瘍と同様の組織形態を示す癌で,極めてまれである.
細胞質の乏しい小型の細胞が篩状構造,充実胞巣,あるいは索状構造をつくり,
その胞巣内の小嚢胞腔には胞巣外の粘液と同様に,alcian blue-PAS(periodic acid-Schiff)染色で淡青色に染まる粘液を含む.
この部分では篩状構造を示す腺癌とは異なり,上皮性粘液の産生はない.時に二層性配列を示し,上皮性粘液を含む小導管様構造がみられる.
類基底細胞癌との十分な鑑別が必要である.
内分泌腫瘍(endocrine cell tumor ; NET)
食道では,非常にまれである.
2010年に改訂されたWHO分類1)では,神経内分泌への分化を示す高分化から中分化型の腫瘍をNET(neuroendocrine tumor)とし,
低分化型の腫瘍をNEC(neuroendocrine carcinoma)と称している.
この新分類によると,従来small cell carcinomaなどと称されている組織型もNECに含まれることとなる.
また,外分泌・内分泌双方への分化を呈し,各々の成分が30%以上を占めるものをMANEC(mixed adenoneuroendocrine carcinoma)と分類している.
NETはさらに,G1(carcinoid),G2に分けられ,NECはさらに,腫瘍細胞の大きさからlarge cell NEC,small cell NEC(Fig. 2)に分けられる.