特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis ; IMP)は最近わが国で初めて報告され,その疾患概念が確立された比較的まれな原因不明の腸疾患である.本疾患は腸間膜静脈硬化症に起因した還流障害による慢性虚血性大腸病変とされる1)2).
筆者らが経験した本疾患17例3)と文献的に収集しえた本疾患50症例,計67症例の患者の年齢は平均61(28~86)歳で男女比は30 : 37である.発症は緩徐で,症状は腹痛,下痢,便秘,腹部膨満などが主であり,下血・血便は少ない.罹患部位は回腸末端部から直腸に及ぶが,病変の程度は右半結腸,特に盲腸・上行結腸でより強い.本疾患の臨床画像的特徴としては,腹部単純X線検査では右側腹部に線状石灰化像を認め,腹部CTでは大腸壁の肥厚,および腸管壁ないし腸間膜に一致した石灰化像がみられる.注腸X線検査では壁硬化や不整,管腔狭小,拇指圧痕像や粘膜の浮腫状変化などの所見を呈し,大腸内視鏡検査では粘膜に暗青~赤色あるいは褐色などの色調変化がみられ,浮腫や狭窄,びらん・潰瘍,血管透見像の消失などを伴う(Fig. 1).
肉眼的には半月ひだの腫大・消失,腸壁の著明な肥厚,表面・割面ともに暗紫色調などを特徴とし,潰瘍は存在しても決して縦走性潰瘍ではない.組織学的特徴としては,(1) 静脈壁の著明な線維性肥厚と石灰化,(2) 粘膜下層の高度な線維化と粘膜固有層の著明な膠原線維の血管周囲性沈着(Fig. 2),(3) 主として粘膜下層の小血管壁への泡沫細胞の出現,(4) 随伴動脈壁肥厚と石灰化,(5) 血栓形成はない,などの所見がみられる.このうち,粘膜固有層の著明な膠原線維の血管周囲性沈着と静脈壁の線維性肥厚を認識していると,本症は生検のみでも診断可能である.