異形成(dysplasia)
“dysplasia”のdys-はabnormal,difficultを,plasiaはto formを意味し,形成異常を示す言葉である.
異型性atypiaが非定型的であることを表すのに対して,異形成は非定型的な発育(atypical development)を表す.
しかし,病理組織学的には異型を示す上皮を表す用語として使われている.
もともとは骨組織などの臓器の形成異常で用いられていたが,上皮では1950年頃から子宮頸部において用いられている.
その後,消化管の上皮にも用いられるようになっている.
これまでのWHOの腫瘍分類では,食道と胃でepithelial abnormalities(precancerous)としてdysplasiaが示されている.
欧米では上皮下組織への浸潤像をもって癌と診断する立場であり,上皮内癌との異同が明確ではない.
日本においては,胃では良悪性境界病変や陥凹型腺腫を表す用語として用いられていたが,
それらが良性上皮性腫瘍であることが明らかにされて腺腫(adenoma)という用語に統一されたことから,現在は用いられていない.
「胃癌取扱い規約」ならびに「大腸癌取扱い規約」に異形成の記載はない.
一方,食道では,「食道癌取扱い規約第8版」1)に異形成の定義が示されている.
すなわち,「細胞異型および構造異型を示す上皮内病変であり,上皮内癌と診断するには異型度が十分でない病変」とされている.
その中には,炎症性異型,質的診断が難しい異型,癌を疑う異型などが含まれ,研究者の用い方が異なっていた.
潰瘍性大腸炎では,前癌病変とされる粘膜内病変をdysplasiaと呼ぶ.
病理組織診断基準として,Riddellらによるdysplasia分類が用いられている.
わが国では,厚生労働省研究班による潰瘍性大腸炎における異型上皮の組織分類があり,Riddellらのdysplasiaの概念を含むとしている.
また,肉眼的に隆起を示す病変はDALMs(dysplasia-associated lesions or masses)と呼ばれる.
上皮内腫瘍(intraepithelial neoplasia)