瘻孔癌については明確な定義が存在するわけではない.極めてまれな病態であるため,痔瘻癌の定義に準じて,(1) 瘻孔の両側臓器に癌がないこと,(2) 癌が瘻孔形成以前に存在していたという可能性を否定できるほど十分に長い瘻孔歴があること,の2つの条件が一般的に用いられている.Skir1)はゆっくりと発育する癌が瘻孔形成以前に存在したことを否定できるだけの期間,具体的には瘻孔形成より約10年以上経過していれば癌は続発性であり,慢性炎症により引き起こされたと考えてよいとしている.
1990年以降本邦の報告例を,痔瘻癌を除いて医中誌で検索した.21例の報告例があり,最も多い要因は慢性化膿性骨髄炎に起因する瘻孔からの発癌で8例,続いてCrohn病(CD)の内瘻または外瘻に起因する報告が6例あった.最近の欧米の報告では,17年間にCD症例6,058例のうち4例に瘻孔癌の合併があり,CD以外の病態からの瘻孔癌の発生はなかったと報告されている2).本邦においてもCDの長期経過例は増加しており,瘻孔癌合併症例の報告は今後増加することが予想される.CDに合併した瘻孔癌の2症例を以下に示した.
〔症例1〕(Fig.1)
回腸~S状結腸瘻部に発症した症例である.術前の造影検査ではCDに一般的な内瘻形成が認められる.術後の病理検査で初めて低分化型腺癌の合併が明らかとなった.
〔症例2〕(Fig.2)
15年以上回腸~膀胱瘻を放置した症例で,血尿の精査で行った膀胱鏡検査で膀胱に浸潤する粘液癌の合併が証明された.
瘻孔癌の予後は早期発見が困難なこともあり不良で,今回提示した2症例ともに術後1年以内に死亡している.