直腸の粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome of the rectum ; MPS)は1983年にdu Boulayら1)により提唱され,それまでの孤立性直腸潰瘍(solitary ulcer syndrome of the rectum ; SUS),や深在嚢胞性大腸炎(localized colitis cystica profunda ; CCP)を総称した概念である.問診上排便習慣の異常〔排便時間が長い(15分以上)や排便時のいきみ(strainer)〕を聞き出すことが重要である.排便習慣の異常は様々な肛門機能異常,排便機能異常に起因しており,本症の基礎的異常として排便時に粘膜脱が存在することがdefecographyを用いた排便機能検査によって明らかとなっている.
肉眼分類として (1) 平坦型,(2) 隆起型,(3) 潰瘍型(Fig. 1),深在嚢胞性大腸炎型,が一般的である2).
隆起型は直腸下部~肛門管に近い部位に発生し,腫瘍性ポリープとの鑑別が重要である.潰瘍型は隆起型に比べて,より口側の直腸で中Houston弁の前壁側に好発する.主体の病変は潰瘍であるが,その辺縁には周堤様の隆起や粘膜下腫瘍様の所見を伴うことが多く,進行癌や悪性の粘膜下腫瘍との鑑別が重要である.生検組織では粘膜脱による慢性刺激の結果として生じたと考えられる線維筋症(fibromuscular obliteration)が特徴的所見として認められる.