ドイツ語のKammrotungである.表層性胃炎の胃鏡所見として,1956年刊行のHenning Nの書に記されている1).
胃の皺襞の頂上を,幅をもった発赤が帯状に続いている所見である.
わが国では胃鏡が普及しなかったこと,胃カメラでは診断困難であったことから,ファイバースコープの時代になった1970年代の後半からこの所見が記載されるようになった.
欧米では体部を中心に皺襞頂上部にみられているが,日本では前庭部大彎を中心に,数条の縦走する帯状発赤として認められた.
最初にKammrotungを日本語に翻訳した際に,櫛状発赤としている.
訳者が不明で事実の確認ができないが,Kammというドイツ語は独和辞典では櫛が最初に記してあることから櫛状と訳されたようである.
伸展した前庭部にみられる発赤の状態が,あたかも櫛で引っ掻いたようにみえることも櫛状発赤という訳が広まった一因と思われる.
「日本消化器内視鏡学会用語集3版」では稜線状発赤とし,櫛状発赤は誤訳と明記してある2).
ファイバースコープによる観察では,胃前庭部によく観察されたが,現在の電子スコープでは前庭部大彎,体部小彎,体部大彎に単独または同時に認められる.
ファイバースコープと電子スコープの光源の違いと画質の差によると思われる.
内視鏡所見としては,通常観察では前庭部大彎(Fig. 1)や体部小彎(Fig. 2)は縦走帯状発赤として観察され,数条がほぼ平行して存在する.