大腸癌の治療方針を決定するうえで重要な,SM高度浸潤癌を疑う通常内視鏡所見の指標として,
「大腸癌治療ガイドライン医師用,2010年版」には“緊満感,びらん,潰瘍,ひだ集中,変形・硬化像”が記載されている1).
本稿ではその中で,緊満感を呈する病変の病理学的所見,内視鏡診断におけるその所見の意義,実用性について述べる.
緊満感とは
緊満感とは通常内視鏡観察において病変全体またはその一部において,表面が平滑で光沢を有し,膨張性に発育している印象を受ける肉眼所見のことである.
この所見はインジゴカルミン撒布を行うと,病変表面の模様が詳細に観察され(Fig. 1),光沢も感じなくなるため,通常観察で評価することが望ましい.
また,腸管の伸展具合が不十分な状態では粘膜厚が厚くなり,癌がSM高度に浸潤していてもその存在が隠れてしまう可能性がある.
そのため,緊満感は腸管を十分に伸展したうえで判定する必要がある.
緊満感を有する病変の病理組織所見
われわれが緊満感として感じる所見は,病変全体において粘膜の模様が残存していること,
および粘膜内または粘膜下層に浸潤した癌量が多いことにより生じると考えられる2).
つまり,緊満感を呈する病変には,病変表面の粘膜模様が残存しているpM癌からSM高度浸潤癌まで存在する.
癌の粘膜内病変が脱落し,SM深部に浸潤した癌が表層に露出すると表面は粗糙となるため,緊満感の所見としてとらえがたくなる.
通常内視鏡観察における緊満感の意義とその実用性
本所見はpSM高度浸潤癌の約70%に観察される所見で,
粘膜内病変が保たれたSM高度浸潤癌の診断に有用な所見であるが,pM~SM軽度浸潤癌の約25%にも観察される(Fig. 2)3).