肛門・肛門管の解剖用語 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

肛門・肛門管の構造

肛門を視診すると肛門の外口(anal orifice)が確認でき,その縁が肛門縁(anal verge)である(Fig. 1)

Fig. 1 肛門管の構造.
Fig. 1 肛門管の構造.

肛門縁より1.5~2.0cmほど奥に歯状線(dentate line)が存在する.

これは発生学的に外胚葉と内胚葉の接合部である.

歯状線は隆起を形成する肛門乳頭(anal papilla)と,陥凹を形成する肛門陰窩(anal crypt)から形成される.

肛門陰窩には肛門導管(anal duct)が開口しており,肛門腺(anal gland)へ続く.

肛門周囲膿瘍,痔瘻の発生に関与している1

肛門乳頭から奥(oral側)へ肛門柱(anal column, Morgagni柱)が存在する.

肛門乳頭は炎症で大きくなると肛門ポリープとなる.

肛門柱の上縁を結ぶ線をHerrmann線(ano-rectal junction)とも言う.

Herrmann線は恥骨直腸筋の付着部の上縁に相当する2)

ここから上方は拡張して膨大部を成すのに対し,下方では同筋と外肛門括約筋が円筒を作っており,内腔は管状に狭小化する.

臨床的には指診を肛門より進めると,括約筋にて締められる狭い管腔が肛門管であり,その先で抵抗がとれて指が自由に動く空間が直腸である.

この狭い管腔と広い空間の境が肛門直腸輪(anorectal ring)で,恥骨直腸筋の直腸への付着部上縁に当たる.

肛門縁から歯状線までが解剖学的肛門管(anatomical anal canal),肛門縁より恥骨直腸筋付着部上縁までが外科的肛門管(surgical anal canal)である.

一般的には外科的肛門管を肛門管と呼称しており,日本の「大腸癌取扱い規約」3)上の肛門管の定義も外科的肛門管としている.

UICCによる定義も“The anal canal extends from the anorectal ring to the anal verge”であり本邦と同様であるが,

欧米の論文には解剖学的肛門管を採用するものも多い.

 

肛門管の上皮

肛門管上部の粘膜は腸管の延長である直腸粘膜と同様の円柱上皮である.

歯状線上方6~12mmは円柱上皮,立方上皮,重層扁平上皮より成る移行帯上皮でありcloacogenic zoneとも言われる.

歯状線より下方へ肛門縁までは,毛嚢,皮脂腺,汗腺などの皮膚付属器を欠いた重層扁平上皮であり,この部分を肛門上皮(anoderm)とも言う.

特に,歯状線より下方1cm位は表面が滑沢で薄く,伸展性に乏しく傷つきやすいため,裂肛の発生に関係しており,痛みを強く感じることが多い4)

肛門縁より外側の肛門周囲皮膚は通常の皮膚と同様の皮膚付属器をもつ重層扁平上皮である.

肛門管の粘膜下は多数の血管,平滑筋,弾性線維などから成り,

anal cushionと呼ばれる膨らみ構造が作られ,血液が充満することによって肛門が完全に閉じると言われる.

このanal cushionは内肛門括約筋の収縮を助け,肛門の閉鎖に役立つ2).

 

肛門管の筋群

肛門管の筋肉構造は,内層は内肛門括約筋,外層は外肛門括約筋およびそれに連続する漏斗状の肛門挙筋より成る5)

 

内肛門括約筋(internal anal sphincter muscle) 

 直腸固有筋層の内輪筋に連続した平滑筋で,肛門管部分で肥厚して内括約筋を形成している.

自律神経支配の不随意筋で平滑筋であり,休息時の肛門管の閉鎖を行い,肛門内圧の最大静止圧のおよそ85%を構成する5).

直腸に圧刺激を加えると弛緩する(直腸肛門反射).長さは3~5cmで,下縁は肛門縁の0.5~1.0cmのところにあり,厚さは2~6mmである.

 

外肛門括約筋(external anal sphincter muscle) 

外括約筋は内括約筋を外側から筒状に取り囲むように存在する随意筋で横紋筋であり,収縮していないときでも持続的に活動電位を有する.

体性神経である下直腸神経,会陰神経の支配を受けている.深部(deep),浅部(superficial),皮下部(subutaneous)の3つより成る(Fig. 2)

Fig. 2 外肛門括約筋群.
Fig. 2 外肛門括約筋群.

(1) 深部 :

肛門管の上部を輪状に囲み,肛門の閉鎖に強くかかわっている.

深部の口側は恥骨直腸筋と一緒になり両者の区別はつかない.

(2) 浅部 :

外括約筋の中で最強,最大の括約筋で,肛門管を左右から包み込むように強力に働く筋肉で,

前後の筋束は細いが両側方は太い筋肉で,後方は尾骨後面に付着して尾骨仙尾靭帯を形成し,肛門管を後方へ牽引している.

(3) 皮下部 :

肛門管下端の皮下で,肛門を輪状に取り巻き肛門を閉じる働きをしている.

皮下外括約筋は内括約筋の尾側に存在し,肛門指診で肛門縁のやや上方に内・外括約筋の間を輪状の窪みとして触れ,

筋間溝(intersphincteric line, white line of Hilton)と呼ばれる.

 

連合縦走筋(conjoined longitudinal muscle) 

 内・外括約筋の間を縦走する線維層であるが,直腸の縦走筋,肛門挙筋の線維が一緒になり形成されており,

大部分は皮下外括約筋筋束を分散して貫き,肛門周囲の皮膚に付着する.

また,一部は内肛門括約筋を貫いて粘膜支持靭帯を形成し,筋層や痔静脈叢を上皮に固定させる役割を果たしている4).

主として平滑筋によって作られており,骨格筋はみられない2).

 

肛門挙筋 

腸骨尾骨筋(iliococcygeus muscle),恥骨尾骨筋(pubococcygeus muscle),恥骨直腸筋(puborectalis muscle)の3つの骨格筋(横紋筋)より成り,

骨盤隔膜の主要成分である.主として第4仙骨神経の会陰枝,陰部神経の下直腸枝により神経支配を受けている.

恥骨直腸筋は恥骨結合の裏面より起こり,肛門管上縁の周囲を巻き,左右でU字型の係蹄(puborectalis sling)を作る.

直腸指診で,肛門管上縁の後方でこのringを認識でき,これを肛門直腸輪(anorectal ring)という.

前方では判然としない.横紋筋でありながら,不随に収縮する特殊な作用をもつ4).

また,恥骨直腸筋は直腸・肛門管上部を後方より前方へ牽引し,浅外括約筋は尾骨に付着し,肛門管下部を後方から支えているので,

この両者による下部直腸長軸と肛門管長軸との間で前方へ向かう約90°の肛門直腸角(anorectal angle)が形成され(Fig. 2),排便のコントロールに重要な役割を担っている5).

 

肛門管周囲の組織間隙

肛門管周囲には,脂肪織や結合織などの粗な組織より成る様々な組織間隙が存在し,痔瘻や肛門周囲膿瘍の進展や重症度に関連する(Fig. 3)

Fig. 3 肛門管周囲の組織間隙.
Fig. 3 肛門管周囲の組織間隙.

坐骨直腸窩(ischiorectal fossa) 

内側は肛門挙筋の下面,外括約筋,肛門尾骨縫線,外側は内閉鎖筋,閉鎖筋膜,下方は会陰部皮膚などに囲まれた三角錐を成す間隙で,

外側の閉鎖筋膜は一部分離してAlcock管を形成し,その中を陰部神経(pudendal nerve)と内陰部血管茎(internal pudendal vessels)が通っている.

坐骨直腸窩内には脂肪組織と下直腸神経,下直腸動静脈などが含まれる.

肛門周囲膿瘍の1つとして坐骨直腸窩膿瘍も重要なものであり,その結果としての痔瘻の診断,治療の際にも重要視される部位である.

左右両側の坐骨直腸窩は肛門管後方正中部の肛門挙筋下で肛門尾骨靭帯の上方にある深肛門後隙(deep postanal space,Courtney’s space)で連絡しており,

馬蹄型痔瘻(horseshoe fistula)の発生などにも関係している.

 

皮下間隙(perianal space) 

肛門上皮,肛門周囲皮膚と内括約筋,浅外括約筋の狭い間隙を指す.

側方は臀部の皮下脂肪織へとつながり,内方は肛門上皮部の皮下,および括約筋間隙とも交通している.

この部には外括約筋皮下部,外痔静脈叢が含まれている.この部に肛門周囲膿瘍,皮下痔瘻や血栓性外痔核が発生する.

粘膜下間隙(submucosal space) 内括約筋と粘膜の間にあり,下方は歯状線まで,上方は直腸の粘膜下層へと続く.

この部には内痔静脈叢があり,上直腸動脈の終末枝と連絡している.内痔核が発生する部である.

 

括約筋間隙(intersphincteric space) 

内・外括約筋の間を指し,最も頻度の高い低筋間痔瘻の原発巣を形成する部位で,肛門腺が同部に達している場合がある.

下方はperianal spaceへと続き,上方は直腸壁へと連なる.

 

挙肛筋上間隙(supralevator space, pelvirectal space) 

直腸の両側にあり,肛門挙筋上面,直腸,骨盤側壁に囲まれた領域であり,直腸の側方靭帯(lateral ligament)なども含まれる.

肛門腺の感染がこの部に波及することもある(骨盤直腸膿瘍).

 

 

肛門管の血管支配(Fig. 4)

Fig. 4 肛門管の動脈.
Fig. 4 肛門管の動脈.

上直腸動脈(superior rectal artery)

 下腸間膜動脈より上直腸動脈となり,通常左右2枝に分岐,右枝はさらに前後に分岐し,右枝は肛門管の7時と11時に,左枝は3時に流入する.

この部位は痔核が発生しやすい部位である.これらの動脈は動静脈が発達しており,

このため痔核の手術に際しての出血は静脈性というより動脈性である.

 

中直腸動脈(middle rectal artery)および下直腸動脈(inferior rectal artery) 

 内腸骨動脈より分岐した中直腸動脈は肛門挙筋上を通り直腸壁に達し,下部直腸と肛門管上部を支配している.

内腸骨動脈は中直腸動脈を分岐した後,内陰部動脈となり,Alcock管を通り,

下直腸動脈として分岐し,坐骨直腸窩を通って肛門管の筋層や肛囲皮膚に分布する.

 

静脈系 

通常,肛門管上部は,上直腸静脈を経て門脈系へ流れる経路と,中直腸静脈を経て下大静脈へ流れる経路の両方を有し,

肛門管下部は下直腸静脈より内腸骨静脈経路で下大静脈へ流れる経路をとるとされている.

 

リンパ流

肛門管からのリンパ流は,上直腸動脈に沿って下腸間膜動脈根部リンパ節へ向かう上方経路,中直腸動脈に沿って内腸骨リンパ節へ向かう側方経路,

下直腸動脈から内陰部動脈に沿って内腸骨リンパ節へ向かう下方経路,周囲軟部組織を経て鼠径リンパ節へ向かう経路が存在する.

上直腸動脈(superior rectal artery)

 下腸間膜動脈より上直腸動脈となり,通常左右2枝に分岐,右枝はさらに前後に分岐し,右枝は肛門管の7時と11時に,左枝は3時に流入する.

この部位は痔核が発生しやすい部位である.これらの動脈は動静脈が発達しており,

このため痔核の手術に際しての出血は静脈性というより動脈性である.

 

中直腸動脈(middle rectal artery)および下直腸動脈(inferior rectal artery) 

 内腸骨動脈より分岐した中直腸動脈は肛門挙筋上を通り直腸壁に達し,下部直腸と肛門管上部を支配している.

内腸骨動脈は中直腸動脈を分岐した後,内陰部動脈となり,Alcock管を通り,

下直腸動脈として分岐し,坐骨直腸窩を通って肛門管の筋層や肛囲皮膚に分布する.

 

静脈系 

通常,肛門管上部は,上直腸静脈を経て門脈系へ流れる経路と,中直腸静脈を経て下大静脈へ流れる経路の両方を有し,

肛門管下部は下直腸静脈より内腸骨静脈経路で下大静脈へ流れる経路をとるとされている.

 

リンパ流

肛門管からのリンパ流は,上直腸動脈に沿って下腸間膜動脈根部リンパ節へ向かう上方経路,中直腸動脈に沿って内腸骨リンパ節へ向かう側方経路,

下直腸動脈から内陰部動脈に沿って内腸骨リンパ節へ向かう下方経路,周囲軟部組織を経て鼠径リンパ節へ向かう経路が存在する.

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参考文献

  1. 1)小平進.肛門・肛門管の解剖用語.「胃と腸」編集委員会(編).胃と腸用語事典.医学書院,pp 16-19, 2002
  2. 2)秋田恵一.骨盤内臓の基本的解剖.辻仲康伸(監).大腸肛門病ハンドブック.医学書院,pp 11-30, 2011
  3. 3)大腸癌研究会(編).大腸癌取扱い規約,7版.金原出版,p 36, 2006
  4. 4)松田直樹,日比優一,清水義雄.直腸肛門部の解剖,診察法,各種検査法,疾患と治療.胃と腸 45 : 1268-1279, 2010
  5. 5)岩垂純一.基本的な直腸肛門部病変の外来診察─解剖を含めて.胃と腸 38 : 1225-1237, 2003

著者

  • 松田 圭二 :帝京大学外科
  • 渡邉 聡明 :帝京大学外科