胃癌の病変範囲診断 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

胃癌はHelicobacter pylori菌感染に基づく慢性胃炎を背景として発生することが多く,このような胃粘膜は厚い粘液で覆われている.

したがって,より正確な情報を得るためにはよい前処置が必要である.

検査前にプロナーゼと重曹を内服させ,胃粘膜に付着した粘液を分解しておくこと,

さらに内視鏡挿入時にはガスコン水を用いて粘液を丹念に洗い落とすことが重要である.

範囲診断のために,通常内視鏡で観察すべきポイントは

色調変化(発赤,褪色,黄色など)および段差(隆起,陥凹),表面性状(不整の程度,アレア模様の差)である.

分化型癌は原則として全層置換するため,癌腺管が粘膜表層に露出する.

したがって,通常は色調差や段差で病変境界を認識することができる.

一方,低分化型癌は腺頸部を側方進展するため,その病変範囲診断は難しい.

インジゴカルミンを撒布すると表面構造や段差をより詳細に検討することができる.

しかし,病巣表面に粘液が付着した状態でインジゴカルミンを撒布すると逆に構造が全くわからなくなる.

したがって,あらかじめ粘液を完全に除去してから撒布することが大切である.

拡大観察でみるべき所見は表面構造と血管構造である1)2)

表面構造は腺管の構造異型を直接反映する所見であり,血管パターンはこれを間接的に反映する所見である.

したがって,両者を用いる必要がある.

表面構造の基本は隆起(villi様構造)と陥凹(pit様構造)に大別される.

villi様構造とは指状に隆起する構造物であり,pit様構造は粘膜表層にある孔である.

表面構造はこの2つに大きく分類することが可能であり,両者が混在していることも多い.

また,表面構造が判定できない場合を不明瞭化と評価する.

Fig. 1aは0-IIb病変の白色光内視鏡画像である.

病変はわずかな褪色域として認識されるが,その範囲診断は困難である.

NBI(narrow band imaging)では暗すぎて病変の認識が困難である(Fig. 1b)

NBI近接観察ではbrownish areaとして認識が可能であり(Fig. 1c)

NBI拡大観察では表面構造の差から,その境界は明瞭に診断することができる(Fig. 1d)