腸管Behçet病,単純性潰瘍 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)
Behçet病(Behçet’s disease ; BD)は反復性ないし遷延性炎症性病変を特徴とする原因不明の全身性の疾患であり,口腔粘膜の有痛性再発性アフタ性潰瘍,皮膚症状,眼症状,外陰部潰瘍を主症状とする.副症状として関節炎,副睾丸炎,消化器症状,血管病変,中枢神経病変などがみられ,これらの有無によって診断基準から,完全型BD,不全型BD,BD疑いに大別される.国際的には口腔内潰瘍を必須とし,陰部潰瘍,眼症状,皮膚病変,針反応を判定項目とする診断基準1)が用いられる.BDでは回盲部を中心に腸管潰瘍が生じることがあり,診断基準の完全型,不全型を満たすものを腸管型BDと呼ぶ.症状として腹痛,下痢,血便が出現し,出血,穿孔のため緊急手術を要することもある.しばしば再燃し,再手術を要する症例も多い.
BDにおける消化管病変は食道から直腸のいずれの部位にも発生しうるが,回盲部(既手術例では回腸─結腸吻合部)が最たる好発部位で,画像的には,周堤を有する境界明瞭な類円形ないし不整形の大きな下掘れ潰瘍が特徴的で,これらは定型的病変とされる(Fig. 1).
重症化すれば隣接する腸索や腹壁との癒着や瘻孔を形成することもある.病理学的肉眼像は境界鮮鋭な円形ないし卵円形で,下掘れ傾向があり,潰瘍口は広く,潰瘍縁は盛り上がり組織学的には非特異的炎症によるUL-IVの開放性潰瘍が主体である.潰瘍底は管腔側より壊死層,肉芽組織,漿膜側には線維症を認める2).回盲部以外の大腸,小腸にもしばしば同時性または異時性に大小の潰瘍を認める.これらは腸間膜付着対側に発生し,介在粘膜に炎症はなく,小さくても定型的病変に類似した打ち抜き様を呈することが特徴的である(Fig. 2)3).さらに最近では小腸内視鏡の進歩もあり,回腸のアフタ様潰瘍や区域性病変など多彩な病変も報告されている4).
一方,BD徴候は呈さないが,腸管BDの定型的病変に酷似した消化管病変を認める場合は(いわゆる狭義の)単純性潰瘍と診断される.両者の腸潰瘍は肉眼的,組織学的にほぼ同一で,いずれも難治性であり類似している.また口腔内アフタを随伴する一部の単純性潰瘍は経過中にBD症状が出現することがある.よって両者の異同について議論のあるところであるが,一定の見解は得られていない.
他疾患との鑑別として定型的病変では悪性リンパ腫,Crohn病,非ステロイド性抗炎症剤(nonsteroidal anti-inflammatory drugs ; NSAIDs)起因性腸病変,感染性腸炎,憩室炎などの回盲部病変が挙げられる.また非定型的な多発潰瘍のみのBD症例もまれに認められ,この場合,BD徴候に類似した腸管外合併症を有するCrohn病や潰瘍性大腸炎,膠原病との慎重な鑑別を要する.
治療は5-アミノサリチル酸製剤やコルヒチンなどの薬物療法から,定型的病変を呈する重症例では副腎皮質ステロイド,栄養療法,中心静脈栄養が行われるが,難治性で手術となるものも多い.最近では抗TNF-α製剤などの生物学的製剤やアザチオプリン,シクロスポリンなどの免疫抑制剤の投与も試みられる.
参考文献
- 1)International Study Group for Behçet’s Disease. Criteria for diagnosis of Behçet’s disease. Lancet 335 : 1078-1080, 1990
- 2)渡辺英伸,遠城寺宗知,八尾恒良.回盲弁近傍の単純性潰瘍の病理.胃と腸 14 : 749-767, 1979
- 3)高木靖寛,古賀章浩,平井郁仁,他.口腔内アフタの有無別からみた腸管Behçet病および単純性潰瘍の病変分布と臨床経過.胃と腸 46 : 996-1006, 2011
- 4)松本主之,江崎幹宏,久保倉尚哉,他.腸管Behçet病と単純性潰瘍─小腸内視鏡所見の比較.胃と腸 46 : 1007-1015, 2011
著者
- 高木 靖寛 :福岡大学筑紫病院消化器内科