腸管スピロヘータ症 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

intestinal spirochetosis

 ヒト腸管スピロヘータ症(human intestinal spirochetosis ; HIS)は,螺旋状を呈するグラム陰性嫌気性菌のBrachyspira属を原因菌とする大腸感染症である.梅毒(syphilis)と混同されることがあるが,梅毒の原因菌であるTreponema pallidumとは全く異なる弱毒性の菌である.1967年にHarlandとLee1)が初めて命名し,本邦では1998年にNakamuraら2)が最初の報告をして以来,近年増加している.ヒトへの感染はB. aalborgiとB. pilosicoliの報告例があり,B. pilosicoliはヒトだけでなく様々な動物に広く感染がみられ,人畜共通感染症として注目されているが,B. aalborgiはヒトと高等霊長類のみに感染が認められている.本邦での感染は,多くがB. aalborgiである.感染経路は主に糞便を介した経口感染と推測されており,感染形態は家族内あるいは部族内に広範囲に感染をみる発展途上国の感染様式と,AIDSなどの免疫不全患者に発生する欧米の日和見感染様式の大きく2種類とされているが,本邦の感染形態はいずれにも属していないと思われる.

 スピロヘータ(spirochetes)は病理組織学的に大腸上皮表面に好塩基性で毛羽立ち状に付着した特徴ある菌塊として観察され(Fig. 1),そのままでは病原性を発揮しない.