萎縮瘢痕帯という用語は,「胃と腸」誌12巻12号「大腸結核のX線診断」の論文に白壁ら1)により「潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯」として初めて記載された.潰瘍瘢痕に伴う萎縮帯は一般的に使用するには長いので“萎縮瘢痕帯”という表現が慣用的に用いられ,現在は一般的に使用されている.
腸結核の診断は切除標本で組織学的に乾酪壊死を病変部またはリンパ節に認めることによる.乾酪壊死を有する病変の肉眼所見と非乾酪壊死のみを有する病変の肉眼所見が非潰瘍部で極めて類似していた.また,肉芽腫を認めない病変でも乾酪壊死を認めた病変とも肉眼所見が類似していた.白壁ら1)はこれらにより,乾酪壊死を認めなくても,萎縮瘢痕帯を認めた場合に腸結核が治癒した病変と診断が可能であると述べた.このような肉眼所見を有する病変は腸結核以外にないことも腸結核の診断を広げた大きな要因となった.
黒丸五郎の「腸結核症の病理」2)によると,結核菌は腸管のリンパ組織に取り込まれ,リンパ組織内に増殖して,リンパ組織を覆う腸粘膜が破綻して,潰瘍が形成される.潰瘍底の結核組織が腸管腔に脱落し,潰瘍が浄清される前に,潰瘍周囲の粘膜下層,固有筋層,漿膜下層に膠原線維が増生して瘢痕を形成する.そして,潰瘍面は粘膜上皮が再生して,潰瘍面を覆うと記載されている.この肉眼所見を「潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯」と名付けた.
萎縮瘢痕帯では炎症性ポリープを認めることが多い.また,潰瘍瘢痕であるので粘膜ひだ集中を認めるとともに,腸壁の変形を認める.
X線所見では炎症性ポリープ,粘膜ひだの集中と腸壁の変形を区域性に認める(Fig. 1).
内視鏡所見では区域性に褪色した萎縮した粘膜の中にひだ集中,炎症性ポリープを認める(Fig. 2).これらの所見を認めた場合に臨床的に萎縮瘢痕帯としている.