消化管領域における酢酸撒布の報告は1998年Guelrudら1)によるBarrett食道焼灼後の遺残円柱上皮島の識別に関するものが最初である.
その後,拡大観察併用2),胃癌での側方範囲診断3),NBI(narrow band imaging)併用拡大観察4),酢酸インジゴカルミン併用5),十二指腸や大腸への応用など様々な進展をみせている.
酢酸撒布法の原理は,pHの低下により粘膜細胞内のサイトケラチン重合化が促進され,粘膜表面が白色化することによる.
円柱上皮では1.5%酢酸を撒布後,数秒で粘膜表面は白色化し表面構造が鮮明になる.
その効果は可逆的であり,持続は数分程度と言われている.
また,癌部は非癌部より白色変化が早期に消失するため,酢酸撒布後の経時的変化も胃癌の範囲診断に有用である3).
通常観察では表面構造が不明瞭な病変でも,酢酸撒布後には表面構造が立体的に明瞭になり拡大観察が可能になる.
NBIを併用することでさらに微細粘膜構造が強調され拡大観察が容易になる.
これは,NBIの照射光は到達深度が浅く,白色化した粘膜表面でより反射しやすくなり,コントラストが高くなることによる.
また,癌部で白色変化が早く消失することにより生じる周囲との色調のコントラストもNBIでより明瞭になる.
酢酸撒布法による胃癌の微細構造観察の実際を提示する.
通常内視鏡観察に引き続き,病変を十分洗浄して粘液を除去する.
次に,関心領域を拡大しピントを合わせる.
この状態で1.5%酢酸を10~20ml直接撒布する.
そのまま数秒間待ち,粘膜が白色化した時点から経時的変化を含めて観察,撮影を行う.
白色化が不十分な場合には適宜,酢酸撒布を追加する.
また,水中で4~5%酢酸を直接撒布し観察する方法も,酢酸の刺激によって滲出する粘液の影響やハレーションを抑えられ観察を容易にする.
Fig. 1aは体下部大彎0-IIc型病変の白色光通常観察像,Fig. 1bは水中NBI拡大像,Fig. 1cは酢酸撒布後の水中NBI拡大像である.