食中毒は,食品などに含まれた病原微生物,化学物質,自然毒などを摂取することによって発症する疾患である.食中毒という用語は行政用語であり,一般的に同一の食品によって複数の患者が集団発生した場合を指す.食中毒が疑われた時点で保健所に届出を行うが,結果的に病原体が検出された場合に食中毒として集計される1).原因となる病原微生物は本邦では細菌とウイルスが多く寄生虫は少ない.夏には細菌性が,冬にはウイルス性が多い.食中毒の患者数はノロウイルスが最も多く,死者は腸管出血性大腸菌とサルモネラが多い.
細菌性食中毒ではカンピロバクター腸炎やサルモネラ腸炎が潰瘍性大腸炎に,エルシニア腸炎がCrohn病に類似した画像所見を呈することがあり,その鑑別が重要である2).
細菌性食中毒は発症様式から感染型と毒素型に分けられる.病態的にみれば感染型と感染性腸炎は同一であるが,毒素型は食品中で産生された毒素による中毒であり,感染性腸炎とは言えない.
また,チフス性疾患は腸管局所の潰瘍性病変とともに菌の細網内皮系での増殖による菌血症を伴う全身性疾患であり,症状も発熱が主で下痢は必ずしもみられない.したがって厳密に言えば,食中毒であるが感染性腸炎ではない.
毒素型は毒素を含む食品の摂取によるため潜伏期が非常に短い.ブドウ球菌やボツリヌス菌が代表である.感染型は組織侵入型と毒素産生型に分けられる.組織侵入型のうちカンピロバクター,サルモネラ,赤痢菌などは,粘膜に直接侵入し浮腫,粘膜内出血,びらんなどを来す.カンピロバクター腸炎は浮腫,粘膜内出血が主体であり,軽症の潰瘍性大腸炎に類似しており(Fig. 1),その鑑別が重要である.
エルシニア,チフス菌は組織侵入型であるが,リンパ組織に親和性があり,Peyer板や孤立リンパ小節に潰瘍やびらんを来す.腸管出血性大腸菌,腸炎ビブリオなどは毒素産生型であり,粘膜に直接侵入せず毒素による傷害を起こすが,一般的には粘膜傷害は軽く浮腫,発赤が主体である.腸管出血性大腸菌腸炎は右側結腸に著明な浮腫,びらん,発赤がみられ,赤色~暗赤色を示し,虚血性大腸炎に似た内視鏡像を示す(Fig. 2)3).毒素産生型の菌ではしばしば左側大腸に虚血性大腸炎に類似した縦走病変を呈する.