De Carvalho1)は胃噴門部粘膜下層の血管が食道胃接合部で粘膜固有層に入り込み,
下部食道の粘膜固有層を2~3cm(平均2.5cm)口側へ走行し,再び粘膜下層に移行することを報告した.
内視鏡では下部食道に見られる柵状血管がこれに相当する.
食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)は常に収縮しているため,内視鏡観察が難しく,柵状血管の観察にはコツを要する.
被験者に大きく息を吸ってもらうと縦隔が陰圧になり,食道が拡張すると同時にEGJが口側へ移動するため,EGJの観察が容易となる.
また,食道拡張に伴って上皮が薄くなるため,柵状血管も観察しやすくなる.
「食道癌取扱い規約第10版補訂版」2)では,食道胃接合部の同定として「内視鏡検査における食道下部の柵状血管の下端」と定義している.
一方,もうひとつの指標として,「内視鏡および上部消化管造影検査における胃大彎の縦走襞の口側終末部」も記載されている.
欧米ではEGJの定義は胃襞の口側終末部とされている.
しかし,胃襞の口側終末部は食道内の空気を吸引すると口側に移動するため,不確かな指標である.
一方,柵状血管下端は客観的に評価することが可能であるため,日本では内視鏡的なEGJの定義を柵状血管の下端としている.
しかし,柵状血管にも弱点があり,高度の逆流性食道炎症例では柵状血管の観察はできない.
また,鎮静下の検査時には深吸気が利用できないので,その観察は困難である.
Fig. 1は通常時の下部食道内視鏡像である.
下部食道は狭く,この状態ではEGJやSCJ(squamocolumnar junction)の観察はできない.
血管透見も不良であり柵状血管はほとんど観察されない.
Fig. 2は同症例の深吸気時内視鏡画像である.