鳥肌胃炎 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

gooseflesh-like gastritis

内視鏡検査時,胃粘膜に,あたかも鶏の毛をむしり取った後の皮膚のように,胃粘膜に均一な小顆粒状隆起が密集して認められるものを鳥肌状胃粘膜と呼び,その所見は胃角部から前庭部に認められることが多い.

1962年に竹本ら1)は,20歳女性の胃カメラ所見で初めて“とりはだ”なる表現を用い,その後,“内視鏡的鳥肌現象”として報告した2)

硬性鏡検査時によく観察され,若い女性に多く,検査に対して精神的緊張が強いために起こるのではないかと当初は考えられた.

そのため,鳥肌状の胃粘膜を認めても,若い女性に多い生理的現象であると理解され,病的意義は少ないと理解されていた.

竹本の報告後,小西ら3)は“鳥肌状胃炎”と呼び,若年者に認められる化生性胃炎の初期像として,さらに,1985年に宮川ら4)は21例の鳥肌状胃粘膜症例を検討した.

組織学的に腺窩上皮の過形成がほとんどの症例にあり,リンパ濾胞形成が多く認められたことを報告している.

この論文ではHelicobacter pyloriH. pylori)感染との関連は論議されていないが,リンパ濾胞形成が目立つことから,胃粘膜局所の過剰反応の可能性があること,

また,組織学的にfollicular gastritisであることなどが指摘されている.

しかしながら,一般的には病的意義が明らかでなく,生理的変化と理解されていたためか,胃粘膜に関する内視鏡診断のテキストは数多く出版されているが,ほとんど取り上げられることはなかった.

一方,海外では小児のH. pylori感染例について報告がなされ,内視鏡で観察される胃粘膜の変化を“antral nodular hyperplasia”と表現した.

その後,前庭部の顆粒結節状の胃粘膜は小児のH. pylori感染特有の変化と考えられ,欧米ではnodular antritis,nodular gastritis,antral nodularityと呼ばれていたが,

この所見は必ずしも小児に限らず,成人にも観察されることが後に示されている.

本邦における検討でも,小児のH. pylori感染の内視鏡所見は結節性変化(nodularity)であり,リンパ濾胞の増生がその本体であり,除菌により変化は消失することが明らかにされている.

胃炎の国際分類であるupdated Sydney systemでは内視鏡所見としてnodularityは取り上げられているが,胃炎の診断分類には残念ながら取り上げられていない.

内視鏡所見としては,一般には,胃角部から前庭部にかけて所見は目立ち,均一な小結節が規則的に分布し,近接で観察すると中心に白色のわずかな陥凹を認める(Fig. 1a~c,nodular type).

Fig. 1 鳥肌胃炎の内視鏡像.nodular type の鳥肌胃炎(a~c). 
                               Fig. 1a   均一な小結節状隆起が前庭部に認められ,敷石状を呈している.中心には白黄色の陥凹を認める.
Fig. 1 鳥肌胃炎の内視鏡像.nodular type の鳥肌胃炎(a~c).                                 Fig. 1a 均一な小結節状隆起が前庭部に認められ,敷石状を呈している.中心には白黄色の陥凹を認める.

Fig. 1b インジゴカルミン撒布により隆起はいっそう明確になる.
Fig. 1b インジゴカルミン撒布により隆起はいっそう明確になる.

Fig. 1c  bの近接像.
Fig. 1c  bの近接像.

また,やや疎な分布を示す,小顆粒状の所見を示すものもある(Fig. 1d,e,granular type).