胃癌―鑑別診断  中條 恵一郎(国立がん研究センター東病院 消化管内視鏡科)、濱本 英剛(手稲渓仁会病院 消化器内科)、長南明道(仙台厚生病院 消化器内視鏡センター)

 

【鑑別診断】

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【鑑別診断】

●隆起性病変

隆起性病変(0-Ⅰ型、0-Ⅱa型)は、一般に胃底腺ポリープや胃過形成性ポリープ、胃腺腫、腸上皮化生、粘膜下腫瘍などが鑑別疾患として挙げられるが、まずは上皮性か非上皮性かに着目する。

隆起周囲の粘膜と同様の表面構造を呈し、なだらかな立ち上がりを呈する場合は非上皮性病変と診断され、SMTとの鑑別を行っていく(別項)。

一方、上皮性病変は隆起の基部で境界は明瞭であり、立ち上がりは急峻である。

上皮性病変の鑑別には病変の色調、粘膜面の模様、部位、背景粘膜の萎縮性変化の程度、多発しているか否かが参考となる。

鑑別を要する疾患に、胃底腺ポリープ、胃過形成性ポリープ、胃腺腫、多発性白色扁平隆起、腸上皮化生などがある。

 

(1)胃底腺ポリープ(Fig.25)

組織学的には胃底腺の過形成と、嚢胞状の拡張腺管を特徴とする病変である。

背景粘膜はH.pylori陰性の非萎縮性粘膜を背景に発生する15)

胃底腺領域(胃体部や穹隆部)に発生し、周囲粘膜と同色調であり、通常は5mm以下と小型で多発する。

山田Ⅱ型(→山田分類のページにリンク)を呈するが、5mm以上になると山田Ⅲ型を呈するようになる。

NBI(narrow band imaging)観察では表層に腺窩の開口部を認め、拡張した血管を表層に伴うことがある。

プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI)の長期投与で新たに発生したり,増大することが報告されている16)

家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)に伴う胃病変として認められることがあり、FAPに伴う胃底腺ポリープから発生した粘膜内癌や進行癌の報告例もある17) 18)

Fig25a 

Fig25b

Fig25c

Fig.25 胃底腺ポリープ

胃底腺領域に多発する、立ち上がりが急峻で表面平滑な隆起性病変。

表層には整のpit構造がみられる。

 

 

(2)胃過形成性ポリープ(Fig.26、 27)

組織学的には、腺窩上皮の過形成性変化が主体で腺管が延長し、分岐・拡張を呈する。

時に再生性変化による軽度の核腫大を伴う19)

内視鏡的には、血管が豊富なため正常粘膜に比べて発赤調を呈する限局性隆起性病変である。

表面に粘液や白苔付着を伴うことが多く、基部は有茎性もしくは亜有茎性であり、好発部位はなく、背景粘膜には胃粘膜萎縮を伴うことが多い20)

H.pylori感染との因果関係があり、除菌治療によって80%の症例で除菌成功後に過形成性ポリープは消失するとされている21)

Fig26a

Fig26b

Fig26c

Fig26d 

Fig.26 胃過形成性ポリープ①

発赤調の亜有茎性のポリープ。

強い発赤調を呈する。

 

Fig27a

Fig27b 

Fig.27 胃過形成性ポリープ②

強い発赤調の亜有茎性隆起。

表層にびらんを伴う。

 

 

(3)胃腺腫(Fig.28、29)

褪色調の扁平隆起性病変としてみられ、形・大きさともに均一な粗大顆粒状を呈し、境界は明瞭である。

胃腺腫の中で、①大きさ2cm以上、②発赤調、③陥凹成分を有するものは悪性の頻度が高い22)とされている。

Fig28a

Fig28b

Fig28c

Fig28d 

Fig.28 胃腺腫①

境界明瞭な褪色調の扁平隆起性病変を認める。

表層にはびらんや陥凹はみられない。

腫瘍表層は比較的均一なアレア像を呈する。

 

Fig29a 

Fig29b

Fig.29 胃腺腫②

比較的均一な顆粒からなる褪色調の扁平隆起性病変を認める。

 

 

(4)多発性白色扁平隆起(春間・川口病変 )(Fig.30)

典型的にはPPI投与例で認められ、胃穹窿部から胃体上部に好発する白色調の扁平隆起として認識され、多発することが多い。

表層の血管に乏しく、比較的均一な管状模様を呈する。

組織学的には胃腺窩上皮の過形成性変化である23)

Fig30a

Fig30b

Fig30c 

Fig.30 多発性白色扁平隆起

境界明瞭な正色調の扁平隆起であり、NBI拡大観察では不整に乏しいvilli構造を認める。

 

 

(5)腸上皮化生(Fig.31)

萎縮性変化を呈した領域内に認められる。

典型的には胃体部~胃前庭部に拡がる白色調の多発する小隆起として認識されるが、通常観察では、その拡がりを認識できないことも多い。

白色光観察の所見は、絨毛様所見、粘膜の白色調,粗造・凹凸であり、インジゴカルミン散布の所見では胃小区の大小不同、形不整と、小区間溝に幅不整がみられるものを腸上皮化生とするのが有用な指標であるとされる25)

NBI拡大観察において,light blue crest(LBC)を指標とすると,感度89%,特異度93%で診断できるとされる26)

Fig31a

Fig31b

Fig31c

Fig31d 

Fig.31 腸上皮化生

前庭部に多発する正色調の扁平隆起。

NBI拡大観察では不整に乏しいvilli構造を認める。

 

 

●陥凹性病変

一方、陥凹性病変(0-Ⅱc型、0-Ⅲ型)は悪性リンパ腫、潰瘍や潰瘍瘢痕、限局性びらん(たこいぼびらん,疣状胃炎など)、地図状発赤、限局性萎縮などが鑑別すべき病変である。

一般に着目する点は、境界の有無、陥凹の形態と内部の性状・色調,再生発赤の均一性や、多発しているか否か、背景粘膜の萎縮性変化の程度であり、ひだ集中している場合はひだ先端の性状や集中点の数などになる。

 

(1)悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)(Fig.32)

胃MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫の内視鏡像は多彩である。

一般に早期胃癌との鑑別のポイントは、多発性病変であり、境界が不明瞭,敷石状粘膜・褪色粘膜の併存や、陥凹内部の多発潰瘍、表面に光沢がある、という点である27)

また、リンパ腫は粘膜筋板上下を浸潤発育するため、浅い陥凹内に正常上皮の残存が多く認められ、リンパ腫細胞が上皮内の腺管を侵食する程度によって陥凹の深さが変わり、浅い陥凹と深い陥凹が混在しやすい。

未分化型癌と比べると、リンパ腫の陥凹底の顆粒はより均一で、胃小区模様に類似した円形のものが多く、陥凹境界は不明瞭、不連続で蚕食像がないのが特徴である28)

Fig32a

Fig32b 

Fig.32 MALToma

胃体部大彎に多発する不整褪色陥凹を認める。

陥凹は浅く光沢を有し、境界は不明瞭である。

透見する血管は不整である。

 

 

(2)良性潰瘍・潰瘍瘢痕(Fig.33~36)

活動期潰瘍(active stage、A1~A2)の時期では浮腫や出血の影響もあり、正確な診断は困難であることが多い。

そのため、潰瘍性病変は治癒過程期(healing stage)、瘢痕期(scar stage)で悪性所見がないか、詳細に観察する必要がある。

胃の潰瘍性病変は、潰瘍底の性状、潰瘍の辺縁、潰瘍辺縁の蚕蝕像の有無、再生上皮の性状に着目して鑑別する。

良性潰瘍は円形・類円形であるが、近傍再発潰瘍では多角形となる。

潰瘍底は平滑で,白苔は厚く均一であることが多い(Fig.33)。

潰瘍周囲にⅡcを疑う不整陥凹を伴うことはなく、潰瘍辺縁に出現する再生上皮は均一・放射状である(Fig.34)。

潰瘍辺縁の隆起は、浮腫状でなだらか・平坦な隆起を呈し、送気により比較的伸びはよく、やわらかく、その厚みも均一であることが多い。

集中するヒダの先端は次第に細くなり、一点に集中する(Fig.35)が、再発を繰り返すと、多中心性にひだが集中したり線状瘢痕となる(Fig.36)。

これらの特徴と異なる場合は悪性の病変を疑う必要がある29)

Fig33a

Fig33b 

Fig.33 消化性潰瘍①

辺縁は平滑で,潰瘍底の凹凸も乏しい。

また、白苔は薄く比較的きれいな印象である。

潰瘍周囲に0-IIc型を疑う病変の伸び出しはみられない。

 

Fig34a

Fig34b 

Fig.34 消化性潰瘍②

胃体中部後壁に辺縁が平滑な潰瘍を認める。

再生発赤は幅、分布ともに整である。

病変大彎側にはひだの集中像がみられ、再発性の潰瘍が疑われる。

 

Fig35a

Fig35b 

Fig.35 良性潰瘍瘢痕①

0-Ⅱc型を疑う不整な陥凹は認めない。

1点にひだが集中している。

 

Fig36a

Fig36b 

Fig.36 良性潰瘍瘢痕②

線状の潰瘍瘢痕である。

瘢痕周囲に随伴する陥凹面(0-Ⅱc面)はない。

 

 

(3)限局性びらん(たこいぼびらん、疣状胃炎など)(Fig.37~41)、地図状発赤

びらんは粘膜の浅い欠損を伴う病変であり、多発することが多い。

周囲粘膜には再生性の発赤を認めたり、内部に小さな白苔付着を伴うことが多い。

良性のびらん・発赤の場合は、多発し赤味は淡く、境界は不明瞭で円形や楕円形の形態となる。

また、陥凹の辺縁は平滑で、再生上皮は放射状に均一となる。

一方、悪性の場合は、単発で赤味が強く、境界が明瞭となり、形態が不整形であるのが特徴である。

陥凹の辺縁は蚕食像で再生上皮は大小不同となる。

鑑別のポイントは、周囲より大型なものや、形態が不整形なものに注意することである。

地図状発赤は、陥凹辺縁の性状・輪郭、病変の陥凹部の性状に着目して観察を行う必要がある30)

Fig37a

Fig37b 

Fig.37 限局性びらん(たこいぼびらん,疣状胃炎など)①

a インジゴカルミン撒布像.境界が不明瞭である。

b びらんは多発している.周辺で発赤が淡くなる。

 

Fig38a

Fig38b

Fig38c 

Fig.38 限局性びらん(たこいぼびらん、疣状胃炎など)②

隆起の頂上部(中央)にびらんを認める。

びらんの辺縁に蚕食像はない。

 

Fig39a

Fig39b 

Fig.39 限局性びらん(たこいぼびらん,疣状胃炎など)③

前庭部から幽門前部小彎にびらんが多発している。

それぞれのびらんの境界は不明瞭である。

 

Fig40a

Fig40b 

Fig.40 限局性びらん(たこいぼびらん,疣状胃炎など)④

a 境界が比較的明瞭な発赤陥凹。

境界および陥凹底は平滑である。

b NBI併用拡大観察像。

陥凹底は比較的整のvilli構造が主体である。

 

Fig41a

Fig41b 

Fig41c

Fig.41 陥凹型腸上皮化生

a、b 境界明瞭な発赤調の多発する陥凹.辺縁は不整に乏しい。

c 陥凹内のNBI拡大観察では比較的均一なvilli構造を認める。

 

 

(4)限局性萎縮(Fig.42~44)

萎縮移行帯の胃底腺粘膜内に出現する褪色小陥凹として認識され、未分化型癌との鑑別を要する。

しばしば多発し、領域内に血管透見を認め、褪色の辺縁が滲むように不明瞭になる点が鑑別に有用である31)

 

Fig42a

Fig42b 

Fig.42 限局性萎縮①

a 胃底腺領域に存在する境界不明瞭な褪色陥凹。

b 陥凹が浅く、透見される血管は整である。

 

Fig43a

Fig43b 

Fig.43 限局性萎縮②

a 境界が不明瞭な褪色陥凹。

b 陥凹が浅い。

 

Fig44a

Fig44b 

Fig.44 限局性萎縮③

a 胃体下部から前庭部に多発する境界明瞭な褪色陥凹。

b NBI併用拡大観察像。

整のpit構造を認める。

 

 

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【文献】

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