逆流性食道炎   小池智幸(東北大学病院 消化器内科)

 

【概念・概略】

胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease: GERD)は、胃酸を主とした胃内容物が食道に逆流することにより発症する疾患。

食道にびらん(粘膜障害)を認めればびらん性GERD(逆流性食道炎)、びらんを認めなければ非びらん性GERD (non-erosive reflux disease: NERD)と定義される。

 

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【症状】

胸やけと逆流感(呑酸)が定型症状。

慢性咳嗽、喘息、咽喉頭炎、中耳炎、副鼻腔炎、睡眠障害、歯牙酸食などの原因となることもある。

 

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【内視鏡診断・分類】

GERDの内視鏡診断には、主にmucosal break (粘膜傷害)の概念が導入された改訂ロサンゼルス分類(Table 1)が用いられる.。

 

https://gastro.igaku-shoin.co.jp/words/ロサンゼルス分類

 

 mucosal breakとは「より正常に見える周囲粘膜と明確に区分される白苔ないし発赤を有する領域」。

改訂ロサンゼルス分類では、mucosal breakの拡がりの程度により、grade A~Dの4段階に重症度を分類している(Fig.14) 。

改訂ロサンゼルス分類に内視鏡的に変化を認めないgrade N, 色調変化型(minimal change: 境界不明瞭な発赤や血管透見が不良で白色混濁を示すもの)のgrade Mを加えた分類がわが国では広く普及している(Fig.5, 6)。

 Fig.1 改訂ロサンゼルス分類 grade N
内視鏡的に変化を認めないもの。

 

 Fig.2 改訂ロサンゼルス分類 grade M
色調変化型 (minimal change: 境界不明瞭な発赤や血管透見が不良で白色混濁を示すもの)。 

 

Fig.3a

 Fig.3  改訂ロサンゼルス分類 grade A
 長径が5mmを超えない粘膜傷害で粘膜ひだに限局されるもの。

 

 Fig.4 改訂ロサンゼルス分類 grade B
少なくとも1か所の粘膜傷害の長径が5mm以上あり、それぞれ別の粘膜ひだ上に存在する粘膜傷害が互いに連続していないもの。

 

Fig.5 改訂ロサンゼルス分類 grade C
少なくとも1か所の粘膜傷害が2条以上の粘膜ひだに連続して拡がっているが, 全周の75%を超えないもの。

  

 Fig.6 改訂ロサンゼルス分類 grade D
 全周の75%以上の粘膜傷害を認めるもの。 

 

 

 minimal changeおよびmucosal breakの内視鏡医間の診断のばらつきが問題となっている。(Fig.7, 8)

  7a      7b 

Fig.7  粘膜障害の診断時の注意点~Barrett粘膜との鑑別~

a 改訂ロサンゼルス分類 grade A
周囲と明瞭に区分される発赤(5㎜未満の粘膜障害)が観察される(↓)ので、改訂ロサンゼルス分類 grade Aの逆流性食道炎と診断できる。

b バレット粘膜(short segment Barrett esophagus;SSBE)
PPI(proton pump inhibitor)で治療すると粘膜障害が消失した。三角状の発赤調の粘膜面(↓)はBarrett粘膜であり, 粘膜障害ではない。

 

8a Fig.8b8b 8c

Fig.8  粘膜障害の診断時の注意点~grade A, grade M, Barrett粘膜との鑑別~

a 改訂ロサンゼルス分類 grade A
周囲と明瞭に区分される発赤(5㎜未満の粘膜障害)が観察される()ので、改訂ロサンゼルス分類 grade Aの逆流性食道炎と診断できる。

b 改訂ロサンゼルス分類 grade M
周囲と明瞭に区分される発赤ではないので改訂ロサンゼルス分類 grade Mと診断する。
GERD(gastroesophageal reflux disease)症状を伴えばNERD (non-erosive reflux disease)の診断となる。

c Barrett粘膜(SSBE)
Barrett粘膜()であり,粘膜障害ではないことに注意する。

 

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【鑑別】

GERDの鑑別疾患として、食道アカラシア、びまん性食道痙攣(diffuse esophageal spasm: DES)、nut cracker esophagusなどの機能性疾患が挙げられる。

食道アカラシアは、X線造影検査で、食道の拡張およびバリウムの停滞、食道胃接合部の平滑な狭窄像が認められる(Fig.9)。

 Fig.9  食道アカラシアのX線造影像.
食道の拡張 およびバリウムの停滞,食道胃接合部の平滑な狭窄像が認められる。

 

 

食道アカラシアでは,内視鏡検査で食道の拡張所見と食道内の残渣の所見,深吸気時にも食道下部縦走血管は十分に観察されず、esophageal rosetteとされる食道胃接合部のひだ所見が診断に有用である(Fig.10)。

 Fig.10 食道アカラシア
食道の拡張所見と食道内の残渣の所見、esophageal rosetteとされる食道胃接合部のひだ所見が食道アカラシアの診断に有用である。

 

好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis: EoE)も、嚥下困難、food impaction(食物塊の食道嵌頓)などを主訴とし、食道上皮の好酸球浸潤を特徴とする原因不明の疾患で、胸やけや呑酸などGERD症状を主症状とする場合があり、GERDの鑑別疾患として挙げられる。

縦走溝、輪状溝、カンジダ様の白斑、白濁肥厚した粗造粘膜という特徴的な内視鏡所見を有し、生検の病理診断で少なくとも1視野に15ないし20個以上の好酸球浸潤を認める場合にEoEと診断する(Fig.11

 Fig.11 好酸球性食道炎
食道粘膜が全体的に白濁し浮腫状であり、輪状溝やそれに直交する縦走溝が認められ、白色状の顆粒状付着物も認めることから好酸球性食道炎を疑う。
生検で、上皮内に著明な好酸球浸潤を認め、好酸球性食道炎と確定診断した。

 

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【治療】

逆流性食道炎(びらん性GERD)の治癒速度および症状消失の速さは、薬剤の酸分泌抑制力に依存している。

酸分泌抑制薬の中でプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、GERDの初期治療において、他剤と比較して優れた症状改善ならびに食道炎治癒をもたらし、費用効果にも優れており、GERDの第一選択薬となっている。

より強力な酸分泌抑制力をもつ薬剤であるカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker: P-CAB)であるVonoprazanが2015年2月より保険診療で使用可能となり、特に難治性逆流性食道炎での治療効果の高さが期待される。

GERDの長期管理には、薬物による維持療法があり、維持療法にもPPIを用いるのが最も効果が高く、費用対効果に優れ、安全性も高い。

難治性GERD,長期的なPPIの継続投与を要するGERD患者は、腹腔鏡下噴門形成術(Fig.12)などの外科的治療も検討する。

  Fig.12 腹腔鏡下噴門形成術
逆流性食道炎はPPIでコントロール可能であったが、著明な食道裂孔ヘルニアの合併があり、食物を嘔吐してしまうという症状が強く、腹腔鏡下噴門形成術を施行。術後、食道裂孔ヘルニアを認めず、内服薬なしでも逆流性食道炎を認めず、GERD症状もなし。

 

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【予後】

注意すべき合併症として出血、食道狭窄、Barrett食道腺癌が挙げられる(Fig.13)。

出血性食道炎はPPI投与にて対応できることがほとんどである。

Fig.13 出血性食道炎

 

 食道狭窄は内視鏡的バルーン拡張術が有効なことが多い(Fig.14)。 

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Fig.14 食道狭窄に対するバルーン拡張術
a 改訂ロサンゼルス分類 grade D の逆流性食道炎を伴う食道狭窄を認め、内視鏡が通過せず。

b 内視鏡的バルーン拡張術施行。

c 内視鏡通過可能となる。

 

 逆流性食道炎の治癒後に明らかになるBarrett食道腺癌も存在するため注意が必要である(Fig.15)。

15a15b

Fig.15 逆流性食道炎治療後に明らかとなったBarrett食道腺癌
a 胸やけ症状あり、内視鏡検査施行したところ、改訂ロサンゼルス分類 grade D の逆流性食道炎とその肛門側に続くBarrett食道を認めた。
この時点では、逆流性食道炎の所見に目が奪われてしまい認識はしていないが、後日内視鏡所見を見直すと2~3時方向に発赤調の粘膜面を認める。

b PPIを投与すると、粘膜傷害が縮小するに伴い、バレット食道の口側端に発赤調の病変が目立つようになり、生検を施行したところ、高分化型管状腺癌疑いと診断された。
内視鏡的粘膜切除術を施行し、粘膜内にとどまる高分化型腺癌と診断した。

 

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【疫学】

Helicobacter pylori感染率の低下や食生活の欧米化による胃酸分泌能の上昇が指摘されており、わが国においてGERDの増加が懸念されている。

Fig.16 わが国における典型的逆流性食道炎の背景
Helicobacter pylori陰性で胃粘膜萎縮がない食道裂孔ヘルニアが合併している。

 

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