お忙しくて、抄録に目を通す時間がない先生方へ!
今年は神戸で開催されるJDDW(Japan Digestive Disease Week;日本消化器関連学会週間)について、膵癌診療ガイドラインの改訂委員も務められている花田敬士先生(JA尾道総合病院)から、花田先生から見た胆道・膵臓分野での見どころをお伺いしてきました。
JDDWに参加する前の参考情報として、是非ご活用ください!
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——膵癌は患者数も増え、社会的にも注目度が高いと思いますが、やはり今年もメインテーマの一つでしょうか。
花田 そうですね。「膵癌取扱い規約」の第7版が2016年に改訂されて、切除可能境界(Borderline resectable;BR)、切除不能(Unresectable;UR)など新しい概念が出てきたことが一つ大きなポイントです1)。すぐに外科の先生に手術をしていただくのがよいのか、集学的治療として化学療法をしてから手術にいくのがよいのか、難しいところです。私たちが取り組んでいる膵癌早期診断MEMO1の考え方が全国に根付き始めていて、膵癌の患者さんは増えていますが、日本では昔はStage Ⅳで発見されることが多かったのが、スクリーニング法の進歩により、今後はStage ⅡやⅢがボリュームゾーンになってくることが予想されます。ですが、そこの部分の治療をどうすればよいのかというのは臨床試験の結果がまだ出ておらず、コンセンサスがないところなんです。今年のASCO(American Society of Clinical Oncology)でもやはり出ませんでした。 今のガイドラインでは、BRに対しては、化学療法でたたいてdownstageして、再発も予防する薬をいれておいて手術をする、ということになっています2)。ただ、手術を前提とした場合、患者さんのQOLを低下させることなく腫瘍を縮小させる必要があり、そのための有効な方法が模索されているところです。「統合1(PD):Borderline resectable 膵癌の新しい治療戦略≪携帯アナライザー≫」では、まだエビデンスがない中で皆さんどうされているのか、また臨床試験の進捗状況についてもご披露いただけるかなというところですね。現在、2019年版の「膵癌診療ガイドライン」を改訂している最中ですけれども、まさにこの部分が一番の話題になっています。
MEMO1 尾道市医師会(かかりつけ医)とJA尾道総合病院(中核病院)が連携し、喫煙歴、飲酒歴、糖尿病、家族性膵癌といったリスクが高い方にかかりつけ医が腹部エコーを行い、膵管拡張や嚢胞性病変といった膵癌の間接所見があれば、中核病院で精査し、長期予後が期待される微小膵癌を発見する取り組み(尾道方式)をモデルケースに、全国各地に膵癌早期診断の取り組みが波及している3)。 |
——膵癌の化学療法に関しては、何か新しいレジメンが出たりと、話題があるのでしょうか。 花田 レジメン自体はここ1・2年で新しくなってはいないので、「PD3:胆道癌・膵癌に対する化学療法の進歩」では、現在ゴールデンスタンダードとされている化学療法に加えて上乗せ効果があるものを探ったりと、組み合わせを検討するのではないでしょうか。あとは免疫療法ですね。また、化学療法に行く前に放射線療法をいれたほうがよいのか、といったところがディスカッションされると思います。 ——神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)もかなり盛り上がっているとお伺いいたしました。 花田 「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」4)が2015年に出て、現在次回の改訂が進んでいるのですが、「経過観察をしてもよい」という概念が出るなど治療戦略がかなり変わる予定なので、「どのようなNETを治療すればよいか」というところが議論になってきます。転移していて切除できない、例えば肝転移を起こしている症例に対して、どこまでだったら手術にいくのか、どこまでだったら化学療法がよいのか、日本のデータが出てきはじめています。また、WHO分類2017ではNETの定義の変更もありました。「W15:膵神経内分泌腫瘍の治療戦略」では、このあたりの話がなされると思います。 ——新しいWHO分類は現場に浸透しているのでしょうか。 花田 いえ、まだ一般の臨床医に普及しているとはいえない状況ですので、ぜひ定義の変更点の整理についても期待したいですね。 ——最近、検診で膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary-mucinous neoplasm;IPMN)が見つかる機会が増えているという話をよく耳にします。 花田 膵嚢胞性疾患は、IPMNもあれば、充実性偽乳頭腫瘍(solid pseudopapillary neoplasm;SPN)や粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm;MCN)、漿液性嚢胞性腫瘍(serous cystic neoplasm;SCN)もあって多種多様です。最近では、新しいIPMN国際診療ガイドラインMEMO2が出てきたり、SPNは日本膵臓学会で私たちのグループが行った多施設共同研究の成績が出ており、今までの治療方針を再検討する必要性を感じています。「PD10:膵嚢胞性疾患外科治療のタイミング≪アンサーパッド≫」は膵嚢胞性疾患の症例を提示して「あなたなら切除しますか?フォローしますか?」というようなことをアンサーパッドで回答するセッションですが、このあたりの話も出てくるかもしれません。
MEMO2 2016年8月に仙台で開催された国際膵臓学会でのコンセンサスシンポジウムでの討議をもとに改訂。
「IPMN国際診療ガイドライン 2017年版 日本語版」著:国際膵臓学会ワーキンググループ[代表:田中雅夫]、訳:田中雅夫、B5判/4色/100頁、2018年、4,000円
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——本日はありがとうございました。 参考文献 1) 日本膵臓学会(編):膵癌取り扱い規約(第7版)、金原出版、2016、p.48~53 2) 日本膵臓学会(編):膵癌診療ガイドライン(2016年版)、金原出版、2016、p.101~104 3) 花田敬士(編):膵癌早期診断実践ガイド、文光堂、2018 4) 日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS)膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編):膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン2015年(第1版)、金原出版、2015
花田敬士(はなだ・けいじ)
JA尾道総合病院消化器内科部長/内視鏡センター長 1988年3月島根医科大学卒 所属学会:日本消化器病学会 専門医・指導医・学術評議員、日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医・財団評議員、日本胆道学会 認定指導医・評議員、日本膵臓学会 評議員 膵癌診療ガイドラインの改訂委員を務める傍ら、膵癌の早期診断にも注力しており、尾道市医師会と連携して、膵癌の早期診断を目指す『尾道方式』を考案。同プロジェクトにより、尾道市の膵癌患者の5年生存率は全国平均を大きく上回る20%を達成。『尾道方式』をモデルケースに、かかりつけ医と中核病院の連携で膵癌を早期診断する取り組みが、大阪や山梨など全国各地に波及している。
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