志賀毒素産生性大腸菌感染症 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

Shiga toxin-producing Escherichia coli infection

 下痢原性大腸菌は病原機序の違いにより,腸管病原性大腸菌,腸管侵入性大腸菌,腸管毒素原性大腸菌,志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli ; STEC)および腸管凝集性大腸菌に分けられる.このうち志賀毒素産生性大腸菌は,志賀毒素を産生する下痢原性大腸菌と定義される.1982年に米国で発生したハンバーガーによる集団食中毒において大腸菌O157が原因菌と断定され,激しい血便と腹痛を呈することから当初は腸管出血性大腸菌と名付けられた1).まもなくこの菌がベロ毒素を産生することが判明し,ベロ毒素産生性大腸菌とも呼ばれるようになった1).その後,ベロ毒素は志賀毒素と同じ生物活性を示すことから,毒素名を志賀毒素,菌名をSTECと呼称を統一することが提案された1)が,本邦では腸管出血性大腸菌,ベロ毒素産生性大腸菌の名称もいまだ臨床上用いられている.本邦で検出されるSTECのO抗原血清群はO157が最も多く,次いでO111,O26の順である.O157出血性大腸炎の典型例では1~8日の潜伏期の後,腹部疝痛・下痢で発症し,下痢は1~2日で血性下痢に変わる2).通常出血性大腸炎は5~7日で治まるが,本症の数%に溶血性尿毒症症候群を合併することには臨床上注意を要する.O157出血性大腸炎の典型的内視鏡像は,右側結腸で著しい炎症所見を呈し,左側結腸に向かうに従い炎症所見は漸減する(Fig. 1)2)

Fig. 1a O157 出血性大腸炎の内視鏡像. 上行結腸.著しい浮腫による管腔の狭小化,全周性・高度の発赤,びらん,易出血性粘膜がみられる. 〔文献2)より転載〕
〔文献2)より転載〕
Fig. 1a O157 出血性大腸炎の内視鏡像. 上行結腸.著しい浮腫による管腔の狭小化,全周性・高度の発赤,びらん,易出血性粘膜がみられる. 〔文献2)より転載〕 〔文献2)より転載〕

Fig. 1b O157 出血性大腸炎の内視鏡像. 下行結腸.右側結腸に比し,炎症所見は軽い.
 〔文献2)より転載〕
Fig. 1b O157 出血性大腸炎の内視鏡像. 下行結腸.右側結腸に比し,炎症所見は軽い.  〔文献2)より転載〕

また,縦走潰瘍を呈する例もある2).CTでは,右側結腸の著明な壁肥厚像が特徴的である(Fig. 2)3)