胚中心(二村 聡の消化管病理用語集)

germinal center(GC)

リンパ系臓器・組織〔リンパ節、回腸のPeyer板 (集合リンパ小節)、脾臓、消化管粘膜深部~粘膜下組織のリンパ小節など〕のB細胞領域内に形成される構造体をいいます。
ここでは、抗原刺激によってリンパ組織内に待機していたB細胞が活性化され、(1)増殖、(2)分化、(3)抗体遺伝子の変異が盛んに行われます。
HE染色では、少し明るめの結節状構造物として認識されます。

おもな構成細胞は、小リンパ球 (胚中心細胞 centrocyte)、やや大型のリンパ球 (胚中心芽細胞 centroblast)、組織球 (tingible body macrophage)、濾胞樹状細胞 (follicular dendritic cell)です。
組織の断面によっては、明るい領域 (明調域)と暗い領域 (暗調域)の別が明瞭となり、極性 (polarity)を容易に認識することができます(Fig.1)。


Fig.1 リンパ組織の一次小節と二次小節.
一次小節は小リンパ球の結節状集簇巣として視認される.その中央に胚中心が形成され,これをマントル層が帽子状に囲んだ類円形構造物を二次小節(リンパ濾胞)と呼ぶ.
(文献1より転載)

暗調域には暗めの細胞質をもつ幼若リンパ球 (胚中心芽細胞)が稠密しているので、そうでない領域とのコントラストがつきやすくなり、明調域がかえって目立つようになります。
そして、いずれの領域にも破砕物を貪食した組織球 (お腹いっぱいのマクロファージ)が目立ちます。
それは、抗原刺激に対応できない、つまり高い抗原親和性を獲得できなかった(生体防御に役立たない)B細胞がアポトーシスに陥り、組織球に貪食処理されてしまうからです 。
この組織球が組織標本上で確認されれば、同部は胚中心であると判断して差し支えありません(Fig.2,3)。


 Fig.2 粘膜関連リンパ組織の構造.
成人終末回腸粘膜に観察された集合リンパ小節の断面.粘膜深層に分布する二次小節は類円形構造を呈し,その内部に円く明るい領域(胚中心)を有する.この胚中心をマントル層(暗い領域)が帽子状に囲む.そして,このマントル層の外側に濾胞辺縁帯が拡がっているが,その境界は甚だ不鮮明である.
(文献1より転載)


Fig.3 二次小節の細胞分布極性.
胚中心を中拡大倍率で検鏡すると,暗い領域(①)と明るい領域(②)とが視認され,細胞分布に極性がある.また,② を帽子状に囲む暗い領域(③)がマントル層で,その周囲に濾胞辺縁帯(④)が拡がっている.濾胞性リンパ腫では,この ① と ② の細胞分布極性が観察されることはない.
(文献1より転載)


この所見は、反応性リンパ組織過形成と濾胞性リンパ腫との鑑別診断の際、有意義です (両者の鑑別診断の詳細は割愛)。

また、先に述べたように胚中心では盛んに細胞分裂・増殖が行われており、胚中心はリンパ組織の「増殖帯」と拡大解釈することができます。

一方、アポトーシスから逃れ、優れた抗体産生能をもつB細胞 (選ばれしB細胞)は胚中心からマントルゾーンに順次移動しながら、二通りの最終分化を遂げます。
ひとつは、抗体産生に特化した形質細胞 (plasma cell)への分化、もうひとつは、抗原情報を記憶するメモリーB細胞への分化です。
以上から、胚中心には、抗原処理に適したB細胞のみを選択するというたいへん厳しい環境が整っているということが理解できます。

免疫組織化学的には胚中心B細胞には必ずCD10が発現しますが、BCL-2蛋白は陰性です (なお、胚中心内部にはごく少数のBCL-2蛋白陽性T細胞がみられます)。
もし、胚中心と目される結節状構造がCD10陽性かつBCL-2蛋白陽性のB細胞から構成される場合は濾胞性リンパ腫を想起し、丁寧に鑑別する必要があります。

文献
1)二村 聡:消化管組織病理入門講座・10【全消化管】消化管に発生するリンパ腫(前編)―消化管リンパ組織の正常構造を中心に.
胃と腸 49:1096-1102,2014 より転載〕

 

 

 

 

 

 

 

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類義語

著者

  • 二村 聡 : 福岡大学筑紫病院病理部・病理診断科

タグ

  • 病理
  • 消化管