著者の平澤欣吾先生(以下,親しみをこめて欣吾先生とお呼びする)は,私より少し上の世代に当たるが,個人的に深い信頼を寄せ,現在最も敬愛する内視鏡医の一人である。欣吾先生は言うまでもなく,日本を代表する卓越した技術を有する内視鏡医である。しかし真に特筆すべきはその,技術にとどまらない広い視野と科学的思考である。常に客観的な裏付けを重んじ,根拠に基づいた判断を冷静かつ謙虚に下す姿勢こそが,「平澤欣吾」という内視鏡医を最も的確に表している。
本書のタイトルに掲げられた「こだわらない」は一見するとマニアックな細部への執着を捨てた,標準化された没個性的な治療を思わせる。しかしその実,本書では術前診断から鎮静法,切除手技,トラブルシューティング,術後管理,果ては検体の取り扱いに至るまで,あらゆる局面において多様な手法の長短を熟知し,その時々に最適な選択を導く姿勢が全編に貫かれている。すなわち,特定の手技やデバイスに執着することなく,患者にとって最良の結果を導くために自由で柔軟な判断を貫くという,極めて高次元の「こだわり」の凝縮された一冊なのである。
また本書は単なる技術解説書にとどまらないメッセージに溢れている。欣吾先生が重視するチーム医療の理念,根拠に基づく教育の在り方,若手育成への熱意が随所に感じられる。症例を通して語られる洞察には,経験の裏付けとともに,後進に伝えたい哲学がにじむ。教育者としての欣吾先生の真摯な姿勢が垣間見えるのも,本書の大きな魅力である。
これから内視鏡治療の扉を開けようとする若手医師には,新たな発見と刺激を。少しずつ手技の奥深さを理解し始めた中堅医師には,次のステップへの指針を。そして自らの「こだわり」を確立しているベテラン医師には,そのこだわりを再考する契機を与えてくれるだろう。世代や経験を問わず,全ての内視鏡医に自信を持って推薦できる一冊である。
