一言でいうと「実地の本音が詰まった玉稿」である。
読み進めていくと,教科書にはない,“そうそう”と頷く内容の連続。“良い医者ってこういうことだ”という想いが伝わってくる。“技術だけでなく人間力を磨いて,真のエキスパートをめざせ!”という熱いメッセージだ。
著者の平澤欣吾(きんちゃん)先生は,私と1997(平成9)年卒の同期で,公私ともに旧知の親友である。彼との初めての出会いでは,見ためから近寄りがたく,声をかけるのも躊躇したのを覚えている。しかし,いざ話し込んでいくと,フランクで親しみやすく,同じ空気感を共有できた。
とにかくトータルバランスが優れた人物である。われわれのラボに彼を招聘した折,彼の内視鏡技術の高さを目の当たりにした。常に綺麗な視野でブレないメスさばきは,もはや達人の域で,感銘を受けた。そして何より,自分が抱いた疑問やアイデアあるいは技術を,必ず学術論文という形にして世界に発信している点が超一流である。それはこの本の中で,ただ自分の思想を述べているのではなく,自分が世に出したエビデンスを基に語っていることからもうかがい知れる。つまり彼は,患者・病気を深く洞察できる臨床医であると同時に,医学研究者でもある,真の「Scientific Physician」なのである。そして何より思いやりが深い。「お前,大丈夫か,ごめんな,ありがとうな」など誰にでも気遣いができる。これは,できそうで簡単でない。だから,きんちゃん先生の周りにはたくさんの部下や外科医が集い,信頼し合えるチームができる。この素養こそが,患者目線の医療や,安全かつ信頼性のある高度治療につながっていることが本書からもうかがえる。
おそらくこの本は,ESDに慣れてきてエキスパートをめざす中級医が,主な対象であろう。でも,エキスパートも,ビギナーも読んで損はない。“技術だけでなく人間力,つまり心技体”を持つ医師をめざすための,きんちゃん先生の思いが詰まった一冊といえよう。
この本を読めば“「安心して身を任せたい」と思う患者が集まる医師にきっとなれる”と信じてやまない。
